act04 先への誓い






「明日この学校に行かなきゃいけないっぽいね…」

「え、ちょ、マジたりぃから、俺サボるから」

「初日からはいかんよ瑞香、理沙ちゃんと一緒にいこうではないか」

「理沙は寂しいだけでしょ」




書類数枚をじっくりと上から下まで読んでいくと、だんだんと自分たちの"こちら側"での居場所と設定が見えてきた。

とりあえず何故かは分からないが高校二年だったはずの自分たちが中学三年になってしまっていることは確実なようで、氷帝学園とはずいぶんなお金持ちな学校らしく、月々の学費に三人は目を丸くしたほどだ。
この家からそう遠くはなさそうなので明日三人で探検がてら歩いて朝に出ようということになった。


それぞれが用意された部屋に行けばクローゼットには何着かの服と制服が綺麗にかかっていた。茶色がかったチェックのスカートを見て顔を歪めている瑞香をみて優子は苦笑しし、時計をみると午後5時半過ぎを示していることに気づいた。




「夕飯でも作る?」




自室を一通り調べてからまたリビングに戻ってきたときに優子がそう言ってから理沙は自分の腹が空腹を訴えていることに気づいた。賛成の意をこめて理沙はばっと両手を上に伸ばして「さんせぇええい」と言った。
瑞香や優子自身も空腹なのか納得し、そうするかと相槌をうつ。と、瑞香がなに作る、と言おうとした瞬間その言葉をとめて二人の顔を見る。



「……待て」

「んー?」

「お前ら料理できたっけ?」




「……てへっ」

「……えへ」

「優子までやるな!」




頭にわざとらしく拳をあてて笑う二人に瑞香は怒ってから小さくため息をついて、料理が出来るかだなんて聞くまでもなかったと後悔した。

自分たちが元の世界で中3だったころ野外学習があったのだが、その時の夕飯作りの班でたまたま優子と理沙が同じ班になり、夕飯は女子が作ることとなっていたので当然のごとく二人が自分の班の食事を作ったのだが。
同じ班だった男子三人が見事に吐き気を訴え寝込んだ。ある意味凄いのは食中毒とかそういったものではなく純粋に不味くてそんな状態になってしまったことだ。

あの時普段は何かと注意してくる側の優子を含めその犯人(当然だが理沙と優子だ)をきつく叱った上に二度と勝手に自分たちだけで何かを作らないようにと固く約束させたのだ。
ああ、あの時は大変だった……。よく思い出したらあの後の対応に追われたのは俺だよ、と瑞香は思い出して泣きそうになった。



「……いいですか君たち、面倒くさいが俺が作る。お前らは皿やらコップやらだけを準備して、終わったら大人しく座ってなさい。…いいか!」

「はい……」

「はーい」



何も言えなくなり優子は申し訳なさそうに笑いながらコップをテーブルに並べる。理沙も鼻歌を歌いながらスプーンやフォークをそれぞれの位置においた。
キッチンをのぞくと瑞香が器用にフライパンを扱っているのが見え、理沙は嬉しそうに椅子に座る。



「瑞香の料理ちょーうまいよねっ」

「うん!私瑞香の作るケーキとかハンバーグとか凄い好きだよ」

「うちもー!瑞香、裁縫は全然出来ないのに料理は出来るんだよね」

「私裁縫なら得意なんだけどなぁ……」

「うちはどっちも出来ないけどね!」

「え、なんかごめん…」



そうこうしてるうちに瑞香が手際よく出来たものをテーブルに運んで自分も椅子に座る。



「おっしゃぁあオムライスー!」

「わぁおいしそう!瑞香、いただきます」

「いただきまーす!」

「…召し上がれ」



ちょーおいしーと言いながらオムライスを食べる理沙を見ながら瑞香はテーブルに置かれた向こう側の人間からの手紙を見る。
あの手紙には、実は四枚目が隠れていた。それを夕飯を待っている最中に優子が見つけてきたのだ。慌てて理沙と二人でキッチンへいきそれを瑞香に見せた。

四枚目には、ここからいつ帰れるかは分からない、二度と帰れないかもしれない、という三人にとって一番大事なことが書かれていた。
瑞香はオムライスをスプーンですくいながら、二人に視線を向ける。




「…絶対、帰ろう。三人で」

「……当然っしょ」

「何か手がかりがあれば即メールね」




にやりと笑う理沙と優子は手にぷらんとケータイをぶら下げる。

この世界にやってきて自分たちが持っていたのは先ほどまで持っていた自分の通学鞄とテニスラケットのみだ。その中で唯一使えそうな電子機器は、このケータイと電子辞書だけであった。
それは前いた世界と種類や番号は違うもののメモリーやアドレスは何も変わっていなかった。便利なことなので別に文句は言わない。何の優しさかは分からないが充電器がぽつんと三つテーブルに置かれていた。アドレス帳に入った、つい先ほどまで居た自分たちの世界の名前を眺めてケータイを閉じた。


三人は小指を差し出して、その3つを絡める。




「…帰ろう、三人で」




そう言って絡まった指を天井に向けてあげて、下に振り切りながら離した。
そうこれは三人の決して敗れることはない、約束よりも固く信頼よりも大きい契約。

いまそれが始まる。






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