act02 未知なこと
ひゅるるるる
ごんっ「いっ」
すちゃ「ふぅ」
とん「おっ、とと」
理沙、瑞香、優子と順々に着地する。
理沙がうごぉおおと頭を押さえている間に瑞香は怪訝そうな顔をして辺りを見回す。
そこは真っ白な場所でなにもなく、霧のようなものがかかっている。少し走ったらすぐに人が見えなくなりそうなほどに濃い霧。漂う妙な雰囲気に優子は瑞香の近くに寄る。
頭をさすりながら理沙も周りの異常に気づいてか瑞香の服のすそをつかみ二人の間に入る。
と、瑞香が一点で視線を止めたため二人がそこを見ると、濃い霧が集まって人間のような形を作り出した。
理沙はびくっと肩を震わせて瑞香の後ろに隠れながら伺う。
「やぁ、初めまして、旅人よ」
「……誰だ、お前」
「おっと失礼、…そうだな、シンって呼んでくれ。心とかいて、シン」
「名前なんかどうだっていいよ、…何者だ、アンタ」
「…さすが、頭が切れるねぇ、選ばれただけはある」
「選ばれたって…どういうこと!?」
「あんた何なのさ!」
「落ち着け二人とも」
二人を静かに制して瑞香かは腕を組みその人間を睨みつける。小さなやり取りの最中に瑞香は目の前の真っ白な"ヒト"に視線を向け色々なことを考えていた。訳の分からない場所、人間とは違う人間の形をしている正面にいる白いヒト、自分たちが吸い込まれた水溜まり。非現実的すぎて頭がおかしくなりそうだった。
理沙と優子に問われたそれは面白そうににやりと笑った(気がした)。空中であぐらを組んで肘をつき、軽く世間話でもするように話し始める。
「おめでとう、君らは初の成功者、……異世界への旅人だ」
短い言葉に瑞香と優子は目を見開いた。理沙は突然の話についていけないようで、ぽかんとした表情で霧を見ている。
三人の反応にそいつは満足したようににんまりとしてから話を続けた。
「異世界、別世界、異次元……実際こんなものは存在する訳はないし尚且つそこに現実の人間が飛ぶなんて不可能、そして非現実的。これが一般常識をふまえての一般論だ」
「……で?」
「そんな一般論を持ったほぼ世界中の奴らに罵られても日々研究を重ねていた奴らがいる。その研究は大昔から数百年、代々に受け継がれてきた。……それがついに完成したのは3ヶ月前さ。」
そう言いながら男は続けた。しかし成功したもののまだ本当にそれが使えるのかは分からない、なにより飛ぶ人間には条件があるのだ。相談し、検討し、ついに見つけたのがこの三人。見つけたときは本当に飛んで喜んでいたという。
理沙はついていかず頭にクエスチョンマークを浮かべているが、瑞香と優子はあからさまに不快そうな顔をした。理解出来ない上に、明らかに自分勝手な内容だからだ。聞くところによると、あくまで自分たちは彼らの勝手な研究に巻き込まれた被害者なのだから。二人の表情をみてシンはまた笑ったような気がした。
「大丈夫、君らにとって嬉しいこともきっと向こうでは待ってるはずだ」
「そんなのいらないね、……随分身勝手なことする奴らじゃねえか」
「はは、悪いねぇ」
「……研究がどうのとかは分かりました。…それで、」
あなたは何なの?
優子がそう言うとシンはまたぴくりとしてから笑う。ふざけているようにも見えるその態度に優子は眉間にしわを寄せた。
「俺は、俺だ。ただの内通者であり傍観者。そして選抜者。…いいねお前ら、こんな所にきても冷静で俺を疑う、特に取り乱すこともない。気に入ったよ、それでこそ旅人だ。」
「……お前、ウザいね」
「生意気なのも俺は好きだよ。…さてお前ら、そろそろ時間だ」
良い旅を。
そう言って笑ったかと思うとシンは指をぱちんと鳴らす。瞬間、体が宙に浮くような感覚をそれぞれが感じる。三人は慌てて互いの服を掴んだ。
「理沙!離れんなよ!」
「がってん!」
「もぉー何なのこれ…!」
「さーな、……なん、だ、……急に、」
「ちから、抜け……」
その会話を最後に、三人の意識は途絶えていった。
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