act01 普通から異常






6ー1、ウォンバイ桜庭!

「っし!」






コートに審判の声と小さく喜びの声をあげる選手。握手が終わった途端にコートの外にいた部員たちはベンチから勢い良く飛び出して彼女に抱きついた。



「部長凄いですー!」

「やっぱ部長は部長だけです…!」

「んなこと言ったって、これで俺は引退だよ」



部長部長と言ってくる後輩を彼女は宥めながら整列させて対戦校と挨拶して、部室に戻る。
季節は12月手前で、高2は今日で公式の試合は引退試合となっていた。この高校は高3は勉学に励むべきと、高校二年の段階で部活を卒業させるのだ。

次の部長になる一つ年下の子が半泣きになりながら私には無理ですと全ての言葉に濁点がつきそうな声で訴えてきたので彼女はまた笑った。




「大丈夫だよ、お前は良い部長になる。つかまだ卒業する訳じゃないんだから泣くなよ、可愛い顔が台無しだ、みんな」



そう笑う部長に後輩は顔を赤くして、また彼女たちはわぁんと泣き始めた。よしよしと頭を撫でていると、コートの外に見慣れた姿を2つ見つけて、またにかりと明るく笑う。
片方はにこりと笑って控え目に手を振り、もう一人は手をぶんぶんと振って返す。




「お疲れさま」

「おめっとー!」



彼女たちも笑って、最後の試合をそれぞれに祝った。













「やーそれにしても圧勝だったね瑞香!」

「別に、あんなもんだろ」

「とりあえずおめでと!」

「…さんきゅ」

「照れちゃってぇ〜可愛いなぁ」

「理沙うっせーよ」

「ひどい!」

「あ、理沙そこ水たま、」




り、と言おうとしたところで理沙の片足は水たまりに突っ込んでいた。何もないところで転んだり、水溜まりに足を突っ込んだりは理沙がよくやらかすことで、またかと思い二人は理沙の方を向く。それを馬鹿にする前に、三人は異様な光景に目を見開く。

理沙の足が、水たまりに沈んでいる。理沙の靴の部分はすっかり見えなくなっていた。
水たまりでそんな深さがある訳がない、三人はさっと顔を青くした。これは一体なんだ、と。


そうこうして呆然としている間に水たまりはいつのまにか少し広がり理沙の体が入るぐらいの広さになっていて、膝下まで理沙は水たまりというかコンクリートに埋まっている状態になっていた。




「え、なにこれやだやめて助けてぇええええ」

「馬鹿でかい声だすな!」

「いま助けるから待ってて理沙!」

「ったく訳分かんねーっ何なんだよこれ、っ」





ぱし、と瑞香が理沙の手を掴んだ瞬間、今までゆっくりと沈んでいった理沙が急に落ちるようにして吸い込まれていき、理沙の手を掴んだ瑞香も同時に穴に落ちていく。
「瑞香っ、」ととっさに瑞香の手をとった優子も水たまりに飲み込まれ、姿を消す。

静かな住宅街から、三人は姿を消した。
水たまりは元の大きさに戻り、何事もなかったかのようにそこにある。







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