act29 お邪魔します
「げっ、今の下校鈴かよ?!」
「俺化学やばE」
「俺は英語がヤバいどころではない」
「瑞香も?でも理沙は物理のがヤバい………」
とうとうテスト一週間前となっていた本日、放課後部室で勉強していたテニス部の一部+瑞香は死にそうな表情をしていた。
定期テスト一週間前は部活動禁止な上に下校鈴は五時という驚きの速さであった。(早く帰って勉強しろというメッセージであろうか)たった今響き渡った下校鈴を合図に渋々部室から出て鍵をしめる。
勉強出来ない5人組は相変わらず沈んでいて、テストどうしようと呟いていた。
「俺まだ優子に数学教えて欲しいとこあんだけど!」
「理沙も物理……って理沙は家で聞けば良いんじゃーん、良かったー」
「くそくそ理沙!」
「俺桜庭に現文で聞きてえとこあんだけど」
「おれもー」
「良いけど誰か俺に英語教えてよマジで頼むから」
いや俺も英語無理、とばっさり言った宍戸に瑞香はだよなぁと肩を落とした。
保護者組は跡部を覗いてそれを面白そうに眺めている。と、優子が急に思いついたように手を合わせる。
「ジローちゃんとがっくんと宍戸くん、うち来る?」
名案を思いついたことに少し得意げそうな優子に周りは一瞬固まってから、お子様二人組は「マジで!?」と喜んだ。
「ちょっ、優子なに言ってんの?何決めてんの!」
「良いじゃん、今日だけ!それに皆でしたほうがはかどるかもよ?」
「そのわりに跡部たちを華麗にハブったね!」
「……はっ!」
今気付いたという顔をした優子に理沙はけらけらと笑う。「いや本心だ。滝は良いけどアホとメガネは来るなよ」と悪態づく瑞香を慌てて優子は止めたが跡部と瑞香のにらみ合いは既に始まっていた。
「志麻さん、俺たちは帰るから気にしなくていいよ」
「桜庭もあんなんやしな」
おかしそうに二人はガンつけあっている跡部と瑞香を見て、「ごめんね」と言いつつ優子も若干笑っていたりした。
「おーっしじゃあ出発ー!理沙に着いてこいっ」
「えー理沙が先頭とかやだC」
「優子ー、家どっちだ?」
「ちょ、君たちね……!わーん瑞香、…」
「志麻みてぇに少し大人しくなったらどうだ?気持ち悪いだろうがな」
「お前もジローみたいに癒し系にでもなってみろよ、見た瞬間吐くけどな」
「…わー…なにこれどういう喧嘩なの?理沙には分からーん」
訳の分からない内容で喧嘩していた二人を宥めて、六人は跡部たちと別れた。
「マジかよ」
「おおお……」
「すげー!でけぇー!」
三人の家に着いてそれぞれに出た言葉はこれだった。思い返してみればこの家は元の世界の家に比べ格段に広くなっていたのだが、今やそんなことは気にならなくなっていた。
慣れとは怖いものである。
「そうでもねーよ、アホ部ん家とかもっとすげーんじゃないの?」
「跡部は別だC」
「アイツの家は家じゃねぇ、城だ。なぁ岳人」
「そだな」
城と呼ばれ別格に扱われている跡部宅に少し興味が沸いた理沙たちであった。宍戸、ジロー、岳人はそのままリビングに通された訳だが、またしてもその広さと家具のセンスの良さに驚かされた。
床に座るタイプのテーブルにつくと理沙も早々に座り鞄から筆記用具などを取り出す。初めて見る家にキョロキョロと見回していれば、優子が「四人とも手洗ってきてね」と言うので四人は立ち上がり、理沙の後に着いていった。
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