act27 お勉強しましょ
「宍戸ー、歴史のノート写さして」
「おう、代わりに数学貸してくれよ。ほら」
「あんがと、ほい数学」
「跡部、ノート全部コピーさーしーて」
「死ね」
6月の頭、中間テスト二週間前ということで生徒一同はすっかり勉強モードとなっていた。瑞香は理沙と優子の迎えのためにしょっちゅうテニス部の部室に来ていたうちに何だか溶け込んでしまい、今やすっかり常連となっていたりした。
昼休みに部室に集まってノート写し大会が始まる。普段授業を聞いていない組(理沙、瑞香、ジロー、宍戸、岳人である)はお互いちゃんと写していた科目だけを写しあい、他はちゃんと授業を聞いていた組(優子、跡部、忍足、滝だ)に見せて貰う。
ぎゃあぎゃあと騒ぐテニス部員たちと、理沙と瑞香を見てから優子はくすりと笑った。随分仲良くなったものだ、と。
「優子ー、化学のノート見せてー」
「いいよー、はいジローちゃん」
「んーありがとー」
写す気があるのかないのかは分からないけれど、いつの間にか名前で呼びあうようになったジローは机に優子のノートを広げた。まぁ広げただけだったが。
瑞香と宍戸はお互いのノートを必死に写し中、岳人は忍足のノートを同じく必死に写している。
理沙は帰りにコンビニに寄って跡部のをコピーすると張り切っていた。(みんなどれだけ聞いてなかったんだろ……)岳人が持ってきていたMDプレーヤーをかけながら、昼休みは過ぎていく。
「おーわったー。何だぁ俺案外ノート取ってんじゃんね」
「マジで!瑞香の裏切り者!!」
「残念だな、俺も終わったぜ」
「俺もー。瑞香馬鹿じゃね?」
「うっさい岳人!知り合いになった途端図々しくなりやがって…!つかここは理沙を馬鹿にするところであって俺が貶される必要はないはずだ」
「なんだとう!」
瑞香は歴史を写し終えたらしくうんと伸びをしていて、続いて宍戸と岳人が立て続けに終了しノートを閉じた。
三人がくつろぎ始めたのを見て理沙はやる気をなくしたのか、ノートは全て閉じられていた。そしてここからはただの中学生のお喋りタイムが始まる。
「つーか聞いてよ、俺この間の単語テスト5点だったんだけど…ヤバい?これヤバい?」
「勝ったぜ!俺6点ー」
「げぇっ、岳人に負けた!宍戸は?」
「…俺も5」
「何だよ仲間じゃん」
「ジローなんか白紙で出してたぜ」
「マジ?ジローつえー」
「理沙は2点だった!」
「いえーい理沙に勝ったー」
「瑞香そんなに理沙と変わんないじゃん!?」
「ま、再試受けるしかないなー」
「うげ、わざわざ再試なんか受けに行くのかよ?信じらんねーっ」
「偉いだろ。宍戸も理沙も受けるっしょ?」
「おー、まぁな」
「いちおーう。問題分かってるし」
「マジかよ…じゃあ俺も受けとこっかな……」
「20問だ、頑張ろう」
なんて低レベルな会話だろう。そう心底思った人物は一人だったが僅かでも思ったのは三人である。
「……アレはこの間の英語の話しをしてんのか?」
「せやな」
「皆再試みたいだね」
「跡部くんたちは何点だった?」
「俺様は満点に決まってんだろ」
「やるねー、俺は18」
「俺は17やったで。志麻さんは?」
「私は一つスペルミスしちゃって19点」
「…つーか、あんなの普通の奴でも10分ありゃ覚えられんだろうが。何で5点やら6点やら取れるのか俺様には分からねぇな」
「それは人それぞれのだけど、…そもそもやらなかったんだろうね」
「休み時間に単語見たーくらいやろ」
まぁ、らしいと言えばらしいが。
再試を受ける受けないで話しが盛り上がってきていた四人を見ながら優子は小さく笑う。こんなに普通に楽しい学生生活を送っていても良いのだろうかと優子は思うようになってきていた。
「優子ー、そろそろ教室戻ろー」
「あ、はーい」
それは幸か不幸か、すぐにぱちんと優子の意識からは消えてなくなった。
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