act24 初対決
「忍足、向日!ちょっと来い」
瑞香がストリートテニス場で試合をしている一方、こちらはいつものように部活中であった。
が、コートに理沙と優子の姿はない。跡部に呼ばれた二人はラケットを片手に「何だよ?」と言って跡部の前に来る。
その間に跡部は滝に支持を任せて、ついてきなとだけ言って歩き出す。二人は不思議そうに顔を合わせてから後を追う。
着いた場所は跡部たちもよく使う屋内コートで、ここは鍵を持っている正レギュラーしか入れないところである。またここは、
「待たせたな」
「ほんとだよー遅いよ!」
「ちょっと理沙……!」
理沙がサボるときにいつも使っているコートでもあった。そこにはコートで見かけなかった二人が居て、忍足と岳人は目を見張った。
「今からこいつ等と試合だ、早く入りな」
「は?!ちょっと待てよ跡部、マネージャーだぜ!?」
「確かに二人は強いと思うで、この間見とったしな。…せやけど、これはないんとちゃう?」
「つべこべ言わず行け」
跡部が何も聞く気がないことが分かると二人は納得がいかないままコートに入る。反対側に居るのはマネージャー、しかも女子。どうも本気でやる気がしない。「サーブはそっちにあげるよー!」と言う理沙に二人は訳が分からないというような顔をした。
「そのかわり、真面目にやってよー?じゃないと理沙たちストレート勝ちしちゃうからさ」
にっこりと挑戦的に笑う理沙に岳人は目を見開いてから、理沙を睨んだ。忍足は優子を見るが、優子は苦笑しつつも理沙の言うことを否定はしない。
(…本気かいな)忍足はすっと目を細めた。
「俺たちがお前等に負けるかよ!!」
そう言って岳人がサーブを打つ。合図くらいしろー!と言いながら理沙はパァンとそれを勢い良くコートに打ち返す。
忍足がそれをラケットに当てるが、ギリ、とラケットが軋む。
(っ何やこの重さ…!見た目からはとても想像できへんな)
何とか返したそれを今度は優子がたやすく返す。それをまた忍足が返した瞬間、それはまた忍足たちのコートのネット際で転がっていた。二人が唖然としている間に優子はポケットに入れていたボールをぽんぽんと弾ませていて、ネット前にしゃがんでいた理沙が立ち上がって、笑う。
(……今のボレー)
(早すぎる…!)
「さてさて、次いきましょっか」
「なんだー、案外弱いんだねぇ」
「っんだと、」
「向日、事実だろうが。負け惜しみしてんじゃねーよ」
「っ……くそ」
「…理沙、言葉には気をつけなね」
「はいはいっと」
反省をしなさそうな理沙に優子はため息をついた。
試合の結果は6‐2で理沙、優子の勝利となった。忍足と岳人は座り込んで悔しそうに唇を噛む。
「これを機にもっと熱心に取り組むことだな」
跡部はそう言って屋内コートを出ていく。その後ろ姿を見ながら、優子は跡部は優しい人だと思った。
敗者切り捨てのこの部活でこんな試合を見せれば二人はレギュラー落ち決定だ。(まして女であるマネージャーに負けたのだから)わざわざここまで負けに来させたのは、自分たちが一番強いと思いこんでいるこのダブルスの向上心をあげるため。
「損してる人……」
静かにやる気を出し始めた二人を見て、優子は笑った。
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