act18 集まってきた
跡部の打ったボールがパァンと勢いの良い音が鳴ると同時に瑞香から素早いリターンが返ってくる。跡部がそれを返すとジローがドロップを入れるが理沙が、それを素早く拾って逆サイドへ。
しかし瑞香は予測していてかそれを容易く拾いコーナーへと打ち込む。お互い一歩も引かないラリーが、始まった。
「…すげぇな」
「瑞香は強いよー、勿論理沙も」
激しいラリーを見ながら宍戸は関心しながら理沙や瑞香を見た。
あの跡部の重い打球を弱めることなく返す瑞香も、チャンスがくればそれを見逃すことなく攻める理沙も、゙上手い゙のだ。
「もーお無理!疲れた!終わりぃー!」
双方ポイントを取ったり取られたりが続き、3-3になったところで理沙が音を上げた。
「ああ?軟弱な女だな」
「3-3まで行き着くのに何分かかったと思ってんのさ?!」
確かに理沙の言うことも一理あった。ここまで辿りつくのに既に40分程度の時間を費やしていたのだ。
おまけに行き交うボールは重く、速く、際どいコース。跡部から前よりテニスをしていた上に体力があるとは言えない理沙は限界を訴えた。
「しょーがないな、じゃあ休憩な、休憩!」
そう言いながら瑞香は理沙の手を引いて立ち上がらせ優子の方へと引きずっていく。
ジローもちょっと疲れたと言いながら宍戸の隣に寝そべった。
「優子ー理沙の代わりに前衛やってきてぇー」
「私後衛しかやらないもん」
「けちー」
「はは、フラれてやんの」
きゃっきゃと騒ぐ三人を見て跡部は目を細めた。審判台に寄りかかる跡部の元に宍戸は足を進める。
「随分手こずってるな」
「あーん?うるせぇよ」
「桜庭の弱点くらいお前のインサイトで見えるんじゃねーか?アイツ等゙普通゙のテニスだぜ」
「……見えねぇから、取れねーんだろうが」
宍戸は目を丸くして跡部を見た。跡部は宍戸の方を見ずにベンチに座って足を組み、コートを睨んでいる。
一方の宍戸は、跡部が言ったことに信じられないとでも言った目をする。腹立たしい部長ではあるが実力だけは認めざるを得ない強さを持っている、それが跡部だ。
しかし、その跡部が見えないと言った。未だ三人で仲良く騒いでいる女子を見て、宍戸は混乱した。
「アホ女、チビ、始めるぜ。ジロー!起きろ」
「なんだ?随分やる気だなアホ部」
「よっし、負けないぞー?芥川覚悟!」
「俺も負けないもんねー!」
ぴょんと起き上がったジローと瑞香がコートに入る。
ジローと笑ってごんとラケットを合わせる瑞香と、目の前でラケットをくるくると回す理沙を見ながら跡部はラケットでボールを跳ねさせる。
「チビ、お前のサーブだろうが、早く打て」
「チビっていうな!馬鹿!美形!エロ!」
「エロ!!?」
「だから若干褒めてるって、理沙」
理沙のエロ発言に瑞香は爆笑し優子はまたしても同じようなツッコミを控え目にいれた。くっそぉう、と言いながら理沙は高くボールを上げる。
「い、く……っぞ!」
ボールが向こうのコートへと向かうのと同時に理沙は前へ出て跡部は後ろに下がる。
瑞香は「っ重いんだよちくしょー!」と言いながら両手でラケットを持ちそれを返す。
跡部がそれを打ち返し、またそれを瑞香が返す。理沙がひょいと出てきてそれを返すと、ジローが慌ててそれを拾う。ラケットの位置が少しずれたせいか、それはロブとなって理沙のコートへと入った。それを打ち返したのは、にやりと笑みを浮かべる跡部である。
「っ、はぁ!?(今グリップに当てにきたのか、こいつ?!)」
先ほどより少し前に出ていた瑞香のグリップにボールが当たり瑞香はラケットを落とす。
再びロブとして返ってきたボールを見ながら跡部は少し跳び、笑った。
「破滅への輪舞曲だ」
パァンと綺麗に決まったスマッシュに瑞香は唖然としボールが通っていったコートを見た。ロンド?と不思議そうに呟きながら、何でもありかよ、と脳内で感想を出した。
「なに今のー!理沙もやりたい!」
「あーん?お前が出来る訳ないだろうが」
「…今の良いじゃん、面白いわー」
ぺろりと唇を舐めながら瑞香は言った。理沙はそれを見て、「あちゃ、スイッチ入った?」と独り言のように言った。
(破滅への輪舞曲まで出すのかよ跡部…!)
(あ、瑞香もしかして今のでやる気出ちゃったのかな……)
観戦組はそれぞれの代表の行動を見ながらはらはらとしている。理沙が次のサーブを打つ前に、再びドアが開く音がした。
「何や、跡部までテニスしとったんかいな……ミイラ取りがミイラやで」
入ってきたのは関西弁メガネの忍足で、瑞香はげっと声を漏らした。どうやら瑞香は忍足が苦手なようで、少し顔を歪めた。
理沙は落ちてくるボールをぱしりと取ってラケットを肩にかつぐ。
「にんそくUCじゃーん、なになにサボり?」
「UCサボり?」
理沙に便乗してにやにやしながらそう言ってきたジローに忍足はアホかとだけ言って跡部の方を向いた。
「跡部、もう四限始まっとるで」
「ああ?…そうだな」
「げ、マジかよ」
「何や宍戸気づいてなかったんか」
今更戻れねーなと言って宍戸は立ち上がった。
「おい桜庭ぁ、ラケット貸してくれよ、俺もやる」
「えー、…じゃあ宍戸一緒にダブルスやろ」
「別に良いけどよ、ジローどうすんだ?」
「俺そろそろ眠くなってきたー……」
「ああ…だろうな。ラケット貸してくれ」
「んー、はいよ」
「せやったら俺は志麻さんの喋り相手にでもなろか」
「あ、ほんと?助かる。でも忍足くん、跡部くんたち呼びに来たんじゃないの?」
「勝手に出てきたから別にええ、サボりや」
「あはは」
「宍戸、入るなら早く入りやがれ」
「しっしどー!ばっちこーい!」
ラケットをぶんぶんと振り回す理沙を見ながら分かってるっつーの!と言いながら宍戸はコートに入る。再び理沙のサーブから試合が再開された。
結局昼休みになるまで全員授業をサボりここに居たのは言うまでもない。
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