act15 ご挨拶
「皆谷理沙でっす、よろしく!」
「え、えーと、志麻優子です、よろしくお願いします」
やはりというか、いつも以上にノリノリな理沙に優子は苦笑しながらとりあえず自分の名前だけ言った。
先日理沙に(無理矢理)テニス部のマネージャーに進められいつの間にか決定という方向になっていたそれがいよいよ実行された。跡部は二人のことを地味女とチビと呼んだ。確か瑞香はアホ女だ。なんて失礼な奴だろう、優子はそれを考えると眉間にしわを寄せる。
優子はほぼ話したことはない状態の跡部を瑞香ではないが殴ってやろうかとさえ思った。
優子はまだ納得していなかった、跡部が自分たちをマネージャー、…または部員に誘ったのか、を。監督とやらがテニスをしたのを見たというのは嘘ではないだろうがそれだけで誘うだろうか、と。テニスが上手い女の子ならそこら中にいるはずだ。
これを続けていくうちに答えが出ればいいけれど、と思いながら、今日の夕飯は何だろうなと言いながら進む理沙とその理沙の前を歩く跡部の後ろをついて来たのがついさっきだ。
今日は特別に制服のままでいいと言われ、そのままにコートへとやってきた。素振りをしている一年生の多さに優子は驚いたが、進み続ける跡部のあとを急いでおう。
コートに入ったところで跡部が大きく集合、と言うとはいといういくつもの声がいっせいにして優子と理沙は思わず肩を揺らした。二百人が段々と集まってきて綺麗に整列する。その間にもじろじろと見られて決していい気分ではなかった。そしてその後冒頭の自己紹介へと戻る。
「この二人は今日からテニス部のマネージャーだ。俺様が任命したんだ、文句は許さねえ。」
なんて勝手な!優子は思わず口を開けて跡部を見た。
部員もそんな顔の優子をみてあ、巻き込まれたんだな、と理解したらしく早々に哀れみ票から仲良くしてくれそうな雰囲気だ。
軽く自己紹介でもしろ、と跡部に突然話しを振られる。当然そんな話しなど聞いていない。これが瑞香だったらまず跡部に喧嘩を売れるのだろうが生憎優子はそんなものを持ち合わせていない。理沙は珍しく名前だけをいい、優子も無難な言葉で自己紹介を締めくくった。
「報告はこれだけだ、各自元の活動に移れ」
「はい、有難うございました!」略してはい、あざっしたー!という体育会系らしい声がまたたくさんしてからばらばらとまた散っていく。それを突っ立って見送っていれば、隣に居た跡部が簡潔に物事を述べる。
「お前等だが、やることは大したものはない。部具の整理と出し入れ、怪我した奴の手当て、部員の出欠席確認、部誌、他校とのスケジュール合わせ、球出し、夏だったらタンクに飲み物を作る…こんなもんだな」
「理沙は応援係ということでおけ?」
「テメェは少し黙っとけ」
「何だとこのやろう!美形!!」
「褒めてるよ理沙……あ、ねえ、マニュアルとかそういうのある?多分いきなりは出来ないから、悪いけど今日の部活はそれを読んでおきたい。明日からはそれに沿ってやるよ」
「随分熱心じゃねーの」
「一応やるからにはやるよ。ちょっと面倒だけどね」
それに理沙と瑞香とテニスするためだったらこのくらい、と優子は声には出さずに呟いた。
文字の羅列を見るとすぐに放り出す理沙を止めながら、その日はマニュアルとの格闘となった。
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