act09 クラスメイト(後)






「ね、優子ちゃんは何部入る?」

「部活?」




最後の授業も終わりホームルームが始まるまでの休み時間に優子はクラスメートに部活についてを聞かれていた。そういえば何も決めていなかった、と考える。高校のときはバイトをしたかったのもあって、部活には入っていなかったのだ。
瑞香は別として理沙も一応部活には入っていたが幽霊部員と化していた。本人曰く、スクールのほうが好きだからとか。じゃあ何故部活に入ったのか謎なところである。



「まだ決めてないかな。ゆっくり考えてみる」

「お、じゃあ私んとこの演劇部なんかいかが?」

「ダンス部もかんげーい」

「サッカーのマネージャーでもどーよ志麻」

「あ、なんか勧誘タイムになってやがる!」

「おい忍足!お前誘え!」

「顔だけはいいんだからその顔を使って勧誘してこい」

「自分ら失礼なやっちゃな……」



と、そんな言葉が聞こえたと共に青い髪をした眼鏡の男が出てくる。朝に会ったのだが優子は跡部の印象があまりに多かったのでこの男のことなどすっかり忘れていた。
にこり、笑ってその男は優子に話しかける。



「あー…志麻さん?自分テニス部のマネージャーやらへん?」



きらりという効果音でもつきそうな笑みを浮かべて勧誘してきた男に優子もそれににこっと笑顔で返す。



「名前は?」

「俺か?忍足侑士や」



釣れた!テニス部員はそう思ったし、忍足自身も少しそういう気持ちがあった。しかし優子は普通であるが、それでいて普通とは違うのだ。笑顔はそのままに、忍足に言った。




「面白い眼鏡してるね!」




今時丸眼鏡?と、さっきの忍足にも負けないほどの笑顔をして言う。周囲は一度静まってから、爆笑の渦に包まれた。




「あっははは、ちょっ、優子ちゃんさいこー!」

「強者だっ……!」

「忍足に、眼鏡っ……」

「忍足いい気味だぜ!」

「ひゃっひゃっひゃっ」

「忍足ざまぁー」

「俺に何の恨みがあんねんお前ら」




指をさされ笑われる当の本人も若干笑っている。
優子は思ったことをそのまま言っただけなので頭にクエスチョンマークを浮かべている状態だ。よくよく考えると中々失礼なことを言ったと夜に落ち込むのが優子の性だ。

いまだおかしそうにくつくつと笑う忍足が、優子と目を合わす。




「おもろいわ、自分。気に入った」




この男に気に入られたことでこの先運命が変わることを知るのは、ずっと後。










「ようズッキーニ、ノート貸してくれ」

「断る」



同時刻、A組では跡部の前で腕を組み偉そうにそういう理沙がばっさりと断られていた。



「つーかなんで俺なんだ」

「クラスの奴に聞いて回ったらズッキーニに借りろってみんな言った」

「………」



理沙が授業のうちの何時間か寝ていたのは知っていたが、まさか自分に借りにくるとは思っていなかったようだ。
跡部がちらりとクラスを見渡すと皆和やかな目で理沙を見ていることが分かる。子を見守る親の目とでも言ったほうが良いかもしれない。なかなかに愉快なクラスだ。先ほどの体制のまま跡部の前に立つ理沙に、小さくため息をついた。




「……何のだ」

「へ?」

「科目だよ。まさか全部とは言わねーだろうな、アーン?」

「化学と、公民……」

「…おらよ」




理沙が科目を言うと跡部は机に手を突っ込んでから、ノートを二冊差し出した。
理沙が受け取り、中をこそりと除くと確かに内容はその二つで綺麗な文字が並んでいる。クラスメートもまさか跡部がかすとは思わなかったらしく跡部と理沙を凝視していた。



「ど…どーゆー風の吹き回しだ」

「あ?いらねぇならとっとと返しな」

「いやいるけど……」

「……貸さなかったらお前もあの女達もうるさそうだろーが。ただし明日の朝に返せ」

「おう……ありがとーズッキーニ………」

「それやめろ」



(あの女達って、瑞香と優子のことだよね…)まだ不審そうにしながら理沙は跡部からノートを受け取って、鞄に入れる。
跡部を睨みながら後退していく。クラスメートはそれを見てけらけらと笑っていた。全く結構なクラスメートだ。




「理沙!お前おっせーよ、とっとと帰るぞ!」

「おわっ瑞香!?」




後ろのドアに瑞香が片手をついて理沙を呼んだ。理沙があまりに遅い(と言ってもそこまで遅れてはいないのだが)ため迎えに来たらしい。どうやら絶対にAには行かないという昼のことはなかったことにしたようだ。
瑞香が迎えに来てくれた、と理沙が嬉しそうに瑞香の元へたどり着く前に別の人物がそこへたどり着く。



「どきな、俺様は部活があるんだよ」

「またお前かよ。理沙が来るまでここは誰も遠さん」

「テメェほど理不尽な奴を見たことねぇよ、何なんだお前、アーン?」

「ほめ言葉だな、あたしもお前ほどのアホ面見たことねーよ」



二人の周りにお前くたばれオーラが取り巻いているのをクラスメートは見たという。



「もー瑞香!ズッキーニの相手しないでうちの相手しろ!ばか!」

「馬 鹿 ?」

「ごめんなさい!」

「テメェ随分な態度じゃねーか…ノート返しやがれ」

「やーその節はどうもどうも、じゃーなズッキーニまた明日!」

「……ふん」



ぷいと瑞香は顔を逸らして理沙を引きずっていく。
跡部も一度舌打ちをしてから、彼女たちとは逆方面に歩いていった。


まだまだ、彼らは交わらない。






「あいつ引っ越せばいいのに。ジャマイカとかに」

「ジャマイカって何?食べ物?芋?」






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