act08 クラスメイト(前)
「転入早々随分噂になってるぜ、ガラわりぃのが来たってな」
「そーかよ、それは嬉しいね。俺は今までお前ほどウザい奴と出会ったことがないがな」
「テメェとそこのチビは特によく聞くぜ。お前は………まぁいい」
(地味って言いたいの?!この泣きぼくろ!)
跡部と瑞香のやりとりは続いていた。
基本良い子な優子だがなにぶん今まで理沙と瑞香と過ごしてきたため悪口だって言ってみせるのだ、今回は瑞香が言い合っていたので心の中に留めていたが。(更に若干地味コンプレックスときている)
理沙は今のうちと言わんばかりにお弁当を食べていて幸せそうだった。瑞香もふとみた理沙で弁当に気づいたのか箸に力をいれる。
「つーか飯食うんだよ、どっか行け」
「アーン?俺様の勝手だろうが」
「つーかさー、ズッキーニ何しに中庭きたの?」
「………はっ、精々貧相な弁当でも貪り食ってるんだな」
「お前いま用事思い出したろ」
「貧相じゃないぞズッキーニめ馬鹿野郎!」
「あ、行っちゃった。(それにしても瑞香が作った弁当に貧相……?それに理沙のことをチビチビって、馴れ馴れしい…)」
心中なんだか恐ろしいことになっている優子をよそに二人は弁当を食べ進め、昼休みは特に問題なく終わった。
授業が終わったら集合、それだけ言って授業が始まる直前にバラけていった。当然集合とは、瑞香のクラスのことだ。何故かって彼女が移動をする気が更々ないからである。
「えー…なにこの人……」
瑞香は自分の席に戻ってから嫌そうな声を出した。
理沙と優子と別れ自分の教室に戻り、次の授業は何だったっけなーと思いつつ席につこうと思えば自分の席は誰かが占領している上に爆睡している。あと一、二分で授業開始のチャイムがなると言うのに。信じられない。瑞香の目はそう語っていた。
周囲のクラスメートは面白がって何も言わない人間が多数、ドンマイと声をかけてくるのがちらほらと。そんなことをされている間にチャイムが鳴ってしまい、同時に教師が入ってくる。
「先生、乗っ取られました」
「ん?」
「誰ですかコイツ、俺の席が……」
「ああ、芥川か……しょうがないな」
「瑞香ちゃん諦めたほうがいいよー芥川君だもん」
「そうだな、ジローだもんな」
「…そこまで言われると対抗心わくな、叩き起こす」
「こら桜庭。もう芥川は放っておきなさい、席は芥川の席につけばいいから」
「……ち、」
なんだ、教師も生徒もこの金髪に甘いのか。瑞香の特等席で起きる気配を微塵も見せない男を睨んでからその男の席に向かう。
どうやら同じ窓側の列で、前から三番目であった。しぶしぶその席につき、筆箱とルーズリーフを机にのせる。と、瑞香は教科書を持っていないことを思い出した。
午前中までは仲良くなった隣の人に見せてもらっていたのだが、こうなってしまってはそれも叶わない。更に嫌なことに芥川という男の隣の人は休みだった。
「先生ー教科書がない上に隣の人がいません」
「ああ、そこは今日休みか……宍戸」
「はい?」
「同じテニス部だろう、芥川の迷惑料として桜庭に教科書見せてやれ」
「何で俺が、」
「幼稚舎からの長い付き合いだろう?ほら、移動しろ」
「……ちっ」
瑞香の隣にきたのはどうやら芥川と同じ部活らしく尻拭いをさせられていた。隣に目をやると男のくせにずいぶんと綺麗な長髪をした奴で、がたりと席についた。
「おい、机」
「は?」
「教科書見んじゃねーのかよ」
「…ああ、」
机を動かすと隣も少し机を寄せてくれて、机がくっつく。何だか文句を言いながらも教科書を普通に差し出してくれるあたり良い奴なのかもしれないと瑞香は思った。
「悪いね」
「あ?」
「教科書」
「ああ、…別に。こっちこそわりぃな、ジローが」
「ジローっつーの?あの金髪」
「そ、いっつも寝てやがんだよ。多分お前の席日当たりいいから寝てたんだと思うぜ」
「ふーん…変な奴。…で、お前はだれ?」
「俺?宍戸亮。テニス部」
「そ、じゃあよろしく宍戸」
「おう」
にかりとお互いに笑う。その後なんだか話し込んでしまい先生に当てられるのはすぐあとのこと。
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