act07 嫌いなやつ
「初めまして皆谷理沙です!趣味は表上はあだ名作りだけど本当は違います。好きなテレビはサザ○さんです。よろしく!」
「桜庭瑞香。一緒に転校してきた奴が二人いるけどそいつ等に手出したら潰すからよろしく!喧嘩なら受けて立つから遠慮なく言いな」
「家庭の事情で転校してきました、志麻優子です、よ、よろしくお願いします! 」
三者三様の自己紹介が各クラスで行われた。まともな自己紹介が優子だけなのは言うまでもない。
「あれ、朝のズッキーニがいる」
「なんだ跡部、知り合いか」
「今朝そこのズッキーニが瑞香に喧嘩売ってたんですよー、瑞香に勝てる訳ないのに」
「喧嘩はいかんぞ。ところで跡部お前はいつからズッキーニになったんだ?」
「そんなチビ知り合いじゃありません。それとテメェなんださっきからズッキーニとか言いやがって、閉め出すぜガキ」
「うっせーなきぼくろ」
「ああん!?」
「お前ら仲いいな」
しかしこんな言い合いに付き合っていたらホームルームの時間はすぐに潰れるのでそこは教師、早々に理沙を席につかせることにした。跡部の後ろの席だったのであまり変わりはなかったが。
ホームルームが終わって、また次の授業が終わる頃には理沙はクラスメートと仲良くなっていた。
当然このクラスにも跡部のファンが居て、初めこそ跡部様になんてことを!と思っていたらしいが、跡部に好意を抱いているよりはましだと考えたらしく理沙とは普通に接していた。ひとまず理沙はクラスに溶け込んだようだ。
昼を知らせる授業終了のチャイムをきくと同時にがたーんと理沙は立ち上がる。
「先生!お昼です!」
「皆谷、まだ終わってないんだが」
「先生!お昼です!」
「この公式だけやっちゃいたいんだけど」
「先生!お昼です!」
「……転校早々なんなんだい君は」
「先生!お昼で「分かった分かった、じゃあ今日はこれで終わり。はい皆立って」
「いよっしゃあ!」
あれだけ同じセリフを言われたら止めざるをえないだろうと生徒は可哀想にという目をしていた。(先生と理沙どちらに向けられていたかは敢えて伏せる)
それでもクラスメートはくすくすと笑ってお昼だーとクラスを飛び出していく理沙を暖かい目で見ていた。案外、このクラスは平和ないいクラスである。
「瑞香ー!ご飯ですよー!」
「今いくー」
がらりとC組の後ろのドアを開けば窓際の一番後ろという転校生らしい特等席に瑞香は座っていた。ちなみに理沙は窓際から二番目の前から四番目という微妙な位置だった。
瑞香もいままで男女のクラスメートに机を囲まれる形で話していた。あの自己紹介で多少なりとも彼女に恐怖した人間はあったが、休み時間に彼女の隣の席の子が話しかけてみれば案外普通に喋れる上に面白い、更になんだか男勝りなかっこいい部分もあり休み時間のたびに彼女の机の周りに群がる人は増えたようだ。
そんな瑞香を待っている間に優子もC組の前までやってきて理沙と合流する。
「お待たせ、…おー優子も来てたのか」
「うん、お昼だし!お弁当どこで食べる?」
「探検がてら中庭あたりでどーよ?」
「そだな、じゃあいくか」
三人で片手に鞄を持ちながら階段を降りていく。この学校はどうやら思ったよりも金持ちらしく、校舎は異様に広かった。
当然ここに通っている人間もリッチで、時々会話を盗み聞いてはなんだか仕事の話を持ち出していて理沙はうげぇと嫌な声を出した。とても中学生とは思えないような人間ばかりだ。
中庭につくとそこに人は居なく、いくつかのベンチ。ちょうどこの時間は校舎のおかげで日陰になっていて、そこのベンチに三人で腰掛け、弁当を広げた。
配置などは違うものの当然中身は一緒なのでおかずの交換など可愛い行為はできない。
その上瑞香は弁当を作る張本人なので「今日のお弁当はなんだろう」という楽しみもないので少々テンションが下がった。が、空腹なのは変わりないので弁当を食べ始める。
「ちょっと金持ち校なだけで、他に特に変わった点はなかったな」
「そうだね、授業も割と普通だったし」
「あ、うちズッキーニと同じクラスだったよ!」
「げ、マジかよ。良かったC組で」
「今朝のあの人かー…なんかインパクト強かったなあ」
「あー、あー……あ、と…べ?って言うんだって」
「ズッキーニで十分だ。それと理沙、あの男がいるかぎり俺はAには行かんからな」
「えーっ教科書忘れた時とかどうすんの瑞香!」
「……BかDに友達作る」
「……よっぽどだね、瑞香」
「当たり前だ、見た瞬間から寒気がした。気持ちわりぃ俺様野郎」
「あ」
「……テメェ等は、」
あ、と理沙が間の抜けた声を出したので理沙の目線の先に顔を向けてみれば、瑞香はちょっと今吐きそうなんだけどと言わんばかりの嫌な顔をした。
「……人の顔見て失礼な女だな…その面もっと歪ませてやろうか、アーン?」
「お前ほどはどうやったって歪まねえよカス」
「びっくりするくらい気が合わないんだね!」
「……みたいだね」
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