05 壊される平穏











「ぶっ、は……っあは、ごめ、マジごめん謙也」
「そんな笑たらカワイソウやろ、真中」
「白石も笑ってんじゃん」
「お前らシバくで」




目の前で遠慮なく笑う紗雪、笑いを堪えてはいるが俺を気づかう気持ちはこれっぽっちもないだろう白石という嫌な奴らは俺の前に座ったまま。ぺしりと殴ってから俺はため息をついた。

つい最近まで俺はいつも通りの日を過ごしていた。テニスやって、白石とクラスでだらだら過ごして、軽音部の奴らとも遊んだりして、まぁそんな感じで毎日平和に楽しく生活していたわけだ。
転入生という言葉も別に俺の転機にはならなかった。紗雪も転校してきた生徒だったから転入そのものは何も珍しさは感じなかったし、まぁクラスメートとして仲良くしようと思っていた矢先だ。


受験の勉強の息抜きに部活に出れば、見慣れない姿が一つ。後輩に聞いても皆首を傾けるばかり、他の部活の人間がオサムちゃんや友人に用があってコートに来ることもないことはないので別段気にすることはなかった。
そのまま練習を見ていると、一定の方向に打ち合っていたはずのボールが的外れなところへ飛んで行く。ふざけて怒ってやろうと思いそのボールの延長戦上を見れば先ほどの女生徒の姿、まぁこのままいけば間違いなく当たる。タイミング良すぎやろ、とツッコミを入れながらとりあえずラケットを掴み走る。やはりというか俺は足が早いのでそれに追いつき、少し前でそのボールを相手コートへと返した。誰やー、と笑いながら注意を促せば後方の人間が動いた感じがする。

振り替えれば少し見た顔で、よくよく見てみれば転入してきた少女であった。声をかければ名前を聞かれたので素直に返すと相手も名乗ってきた。自己紹介は聞き逃していたが紗雪との関係により名字は覚えていたのだが名前までは覚えていなかった。
自分千鶴っていうん、へぇ。感想はそんなもん。まぁ残り少ないけどよろしゅう、あとコートは割りと危ないから入らんほうがええで。そう言おうとした瞬間だ。



「好きです!!」



どういうことやねん。

周りの後輩は楽しそうな視線を寄越し、遠くにいた金太郎は駆け寄ってきてどうしたんと目をきらきらさせながら問う。金ちゃん、ええ子やからあっちでテニスしてようなー。
目の前の相田千鶴という人物は金ちゃんの目の輝きにも負けないくらいでなんだか雰囲気に負けそうだった。丁度良いタイミングでオサムちゃんが何しとんのって相田千鶴をぽこんと叩く。「ケンヤぁ、部活出てくんか?」相変わらず暢気な顧問だ。今日は帰ることを告げれば了解の返事がすぐに返ってきた。とりあえずその日はそのまま別れたが、また次の日からが強烈であったのだ。



自分で言うのもなんだが、白石ほどではないにしろ俺は少しはもてる方だ。告白されることもまぁあったが、好きになることはなく申し訳ないが断っていた。そもそも今年の夏休みまではテニスで頭の中がいっぱいだったのだ。だから、普通の人間より告白というイベントには慣れているつもりだった、のだが。
目の前に座る友人二人が何かに気付いたのか揃ってにやにやし始めた。なんだ、と思ったと同時に教室の扉が勢い良く開かれる。



「おはよう忍足くんっ!今日も一段とかっこいいね!!って紗雪はまた忍足くんといるの!ちくしょう!」
「来たでー謙也」
「千鶴マジないわー、ぶはっ、はー疲れる」



笑いすぎてお腹が痛いと腹を抱える紗雪に声をかけている白石も明らかに口元がにやついている。
わずか数日で名物となったこの光景にクラスメートたちも生ぬるい視線を送るだけであった。なんだか思わず頭を抱えてしまった、いや、好かれるのは嬉しいことだとは思うのだが。



「…ちゅーか、ケンヤでええで」
「へ、」
「長いやろ、オシタリクンって」



後輩でさえ自分を忍足と名字で呼ぶ奴は何故か少ないのだから。そう言えば彼女は嬉しそうに目をまた例のごとく輝かせて、「ありがとう!」とお礼を言ってくる。
…変な子やなぁ。でも何故か憎めない。不思議だと思った。




「自ら名前呼びを促したよ」
「急展開やなぁ」
「これはポップコーンほしいわ」
「無茶言うで真中」



とりあえずこの二人は殴ってええやろ。







「ねーねー紗雪、おし…ケンヤくんの好きなものってなんなの?」
「青汁」
「あ…あおじる…!」
「ぶはっ、千鶴青汁大っ嫌いじゃん!!」
「なんか紗雪笑いの沸点低くなってない?!」














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