09 苦手意識払拭









「ケンヤくん!一緒に帰りませんかっ」




ニコニコしながら言ってくる割と新しめなクラスメートに、謙也はひきつった笑顔を返した。



それは千鶴がここにやってきた大分たった頃だった。週に何度かテニス部に行くのも慣れ、持ち前の社交性でクラスにも仲の良い子が出来た。お昼は相変わらず紗雪や由依と食べていて、ボケツッコミや訳の分からない制度などにも余裕で対応するようになりすっかり四天宝寺の一員となっていた。
部活にも溶け込み、財前に小言を言われたりしながらも千鶴はなんとか着いていっているようだった。

とまぁそんな感じで大阪にも溶け込んできたある日、部活が休みということで紗雪や由依を誘って帰ろうかと思えば二人ともに部活やら委員会やらで予定が入っているらしく断られてしまった。不満そうな顔をした千鶴に紗雪が言ったことといえば「謙也誘えば」の一言で、名案だと言わんばかりに目を輝かせた。近場の靴箱に居たら誘おう、居なかったら諦めようという心持ちで靴箱に向かえば丁度謙也が一人で上履きを履き替えているときで、千鶴はお誘いの言葉をかけたのだった。
一方の謙也といえば、別に千鶴が嫌いとかそういう訳ではないのだがここまで直球で好意を向けられるのは初めてでどう対処するものか迷っていたりした。ここまでくると冗談なのではという気もしてきたのだが、少しでも苦手意識を持っているのは間違いではない。告白されるのは初めてではないが、どうも上手く対処出来なかったりする。加えて軽音仲間の紗雪の友人、そして大事な後輩たちがいるテニス部のマネージャーになったということを考えれば、無下には出来ないのだ。少し困ったような顔をして、謙也は苦笑いした。



「…ええよ」














「どらぁー!負けるかぁぁ!」
「あああお前やろ今俺に赤い甲羅ぶつけたの!」
「勝負の世界に色恋は関係ないのだよ!」
「やられたらやり返したるわ!!」
「あーずるい!なんかあの石のわんちゃんみたいなのずるい!」
「ふははは俺が一番や」




なんていう二人の声が響くのは駅付近のゲームセンターである。あの後一緒に帰って来た訳だったが、その僅かな時間で謙也の千鶴に対する苦手意識はすぐに流れていった。自分に告白してくるということを除けば、関西人にも退けを取らない面白さと明るさで会話には困らずむしろ楽しかった印象が多かった。そんな中会話で謙也がゲーセン最近行ってないと呟けば千鶴が行こうと張り切り、謙也はなにも今日行く気があった訳ではなかったのだがそのままゲーセンへ直行。そして二人で某レーシングカーゲームをし白熱して今に至るのだ。



「卑怯だー」
「どこがやねん」
「次はマジ勝つからね!うち今日本気出してなかったの!謙也くん相手でも容赦はないからね!!」



負けたことが心底心外だとでも言いたそうな顔をして言う千鶴をみて、謙也は気の抜けたような笑みを溢した。





「アホか」






(子どものような千鶴に少しほだされただなんて、そんな。)












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