addio
16



獄寺君に促されて恭弥の居る病室(思った通り、“いつもの”病室だった)に連れられてきた私は、ノックをしようと腕を持ち上げて、はたと気づいた。

(私…恭弥と会って、いいのかな)

つなよし君のせいで(ごめんねつなよし君)忘れていたけれど、私達は相当な覚悟で別れたはずだった。
マフィアである自分のせいで、私が傷つかないように…と言ってくれた優しい恭弥。恭弥の覚悟を無駄にしてはいけない、と恭弥にすべてを押し付けて、ただ頷いただけの狡い私。

二度と会うことはないだろう…そんな風に別れたはずだったのに、昨日の今日、こうしてぬけぬけと会ってしまっていいものか。おまけに恭弥が危惧した“マフィア関係者”と普通に言葉を交わしてしまったし。
そう思うと、いままでの自分の行為すべてが安直すぎて情けなくなる。
やっぱりここは引き返すべきなのか。つなよし君には謝って、もう二度と恭弥と会うつもりはない、そう伝えるべきなんだろう。狡いとはわかっているけれど、恭弥の覚悟を尊重すると決めたのだ、このくらいはやってみせなくては…



拳を作ったまま、扉の前で思考に耽る私を、獄寺君はただ見つめていた。怪訝そうにするわけでもなく、苛立つわけでもなく、呆れるわけでもなく…ただ、見つめていた。

私は彼のそんな様子に気づかない。この時、馬鹿な私は、自分のことしか見えていなかった。

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