今どき本に手紙を挟んでラブレターを渡すなんて、小洒落たことをする女子もいたものだ。封をされていないそれは差出人も宛名も真っ白で、ただ時候の挨拶と、「いつもあなたのデュエルを見ています。」という一文だけが可愛らしい桜柄に添えられていた。これが天上院君が書いた物であったなら、もう間違いなく浮き足立つであろうけれども、小さくて、綺麗なのに少し丸みを帯びたその文字は、きっちりと文字を書く天上院君の字とは少し違うように感じた。
 恋文の彼女は少し小柄な可愛い子。烏の濡れ羽の様な黒髪に、くりっと丸い目をその眼鏡に隠してしまっている、そんな可愛い子からの手紙であったならば、この万丈目準、恋人になることも考えよう。ふふんと手紙をしまい直して、彼女が置いて行った本を見てみる。「超次元融合論」、聞き覚えのない本だが、どうやらデュエルに関する物らしい。パラパラと捲って、ふと目に付いたページはおジャマキングの頁であった。手紙はどうやらこの頁に挟まっていたらしい、少し跡がついている。隣の頁には竜騎士ガイアが載っていて、なる程おジャマもあの武藤遊戯さんの愛用したモンスターと並べる程の地位を確立したのか。
 不思議な感動にうんうん頷く俺は、はっと気付いた。なる程、彼女はおジャマを使う俺にそれを知らせたかったのか。つまりこれは俺へのプレゼント。一人納得する。さて、そろそろお昼の時間だ、売店にでも行こうかと本と手紙を片付けると、不意に視界に影がかかって視線を上げる。

「あの、少しいいですか?」

 女の子だ。もしやこの手紙の彼女かと前髪を格好よく撫で付けながら笑顔で頷くと、彼女は俺の予想に反し、凄く苦い顔をしていた。なんだというのだ。

「さっきの授業で忘れ物をして......超次元融合論の本なんだけど」

「えっ?」

 あの本は、俺にではなかったのか。数拍間を置いて、それまでの自分が随分と恥ずかしい間違いをしていたことに気付く。もしかして、あの手紙は俺宛てではなかったのか。慌てて手紙と本を手渡せば、本に挟んであったはずなのにと彼女は首を傾げたが、一言お礼を言ってこちらに背を向けた。

「ま、待ってくれないか」

「なぁに?」

「その手紙は......?」

 手紙のことに触れると、彼女はああ......とちらり、手紙に視線を落として、一言。

 デュエルキング武藤遊戯に、ファンレターを出そうと思って。

 さながら恋する乙女のように、それはもう可愛らしく頬を染めてはにかんでみせたのであった。そのまま鼻歌でも歌いだしそうな程軽やかに彼女はさっさと行ってしまった。なんということだろう。



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