dream | ナノ


001C Apricot!



最近のブームは、日が上りきる前から活動すること
誰もいない学校が新鮮で、誰よりも早くベッドを抜け出している

勿論、誰よりも先に外の美味しい空気を味わう

薄っすらかかった霧と一緒に、朝の清々しい空気を胸いっぱいに吸い込むと気分がいい

大きなバスケットをブンブンと振り回しながら、校庭を気分よく歩いていると
見慣れた……いや、目に焼きついて離れない、愛しの黒い影を見つける


「セブルス!」


名前を呼ぶと、びくりと肩を震わせて恐る恐るこちらを振り返り
目線があったかと思うと、大きな溜息を吐かれた


「……はぁ」

「こんな時間に会うなんて!やっぱ運命感じるね!」

「貴様との運命なんて無い、断じて無い」


全力拒否!

でもそんな彼が可愛いくて仕方ないです!

大好きで大好きで仕方なかったセブルスを毎日拝めるホブワーツは、本当に天国
イギリスの文化に馴染むのは大変だったけど、此処に来て良かったと思う

それにしても、こんなところを早朝から出歩いているなんて珍しい


「んで、こんなとこで何やってんの?」

「……散歩だ」


少し言葉に詰まったセブルスは、私を無視して道の先へと歩いていく
置いていかれないようにと、私も彼の後を影のようについて行く


「僕の後ろを歩くなっ」

「ノンノン、女は男の三歩後ろを歩くべし!だよ」

「なんだ、それは……?」

日本の言葉を使っても英語圏の人には伝わらないのがちょっと寂しいけど
気にするとキリが無いので、そのまま話を続ける

「私こっちに用事があるんだもん、決してストーキングしてるわけじゃないですから!ノーモア!付き纏い!」

「……何処まで行くんだ」

「ちょっとそこまでー」


しばらく城壁の傍を歩いていくと、ガラスの壁が見えてくる
薬草学なんかで良く来る、ホグワーツの温室棟だ


「着いた!セブルスには特別に見せてあげよう!私の秘密基地です!」


ダンブルドアのじーちゃんに色々と交渉して勝ち取った―――私の秘密の温室

ホグワーツの温室は1から3号室までなのだが、その端のスペースにもう一棟建てて頂いた
スプリンクラー機能と温度調節機能、おまけに日照時間なんかも操れちゃう魔法式温室

中はビニールハウスのように、外気温よりも高めに設定されているせいか
足を踏み入れるとむわっと暖かい空気に身体が包まれる


「な、なんだここは……野菜?」

「今日はこれにしよー」


温室の中はカラフルだ
緑、赤、紫、黄色……様々な色が視界に飛び込む

色んな野菜、果物、それからちょっとした魔法薬の材料を育てている
細かく畑を分けて区切っているから野菜同士の栄養分の取り合いも無く、すくすく成長している

―――本当に魔法って便利ですよ、ええ!


持っていたバスケットにぶちぶちと収穫して、次々に突っ込んでいく
今日は胡瓜と大根、それから茄子をメインに収穫する予定だ


「そのバスケットはその為にあったのか」

「まあね!あとは厨房に行って、コレで浅漬けと煮浸し作ったら、じーちゃんに献上するんだー」

「何だって?聞き取れなかったんだが」


浅漬けも煮浸しも、やっぱり英語じゃ上手く伝わらないようだ
えーっと、漬物はピクルスだけど煮浸しが分からない……


「とりあえずピクルスと、茄子煮たやつ」

「……もうちょっとまともに話せないのか貴様、本当に馬鹿だな」

「おう!褒め言葉として貰っておくよ!」


呆れたような顔をしたセブルスは、奥の方へ進もうと足を踏み出す


「あー、セブルス?そっから先は……」


ぼちゃ、っと勢い良く水音がする
彼が足を上げると、びちゃびちゃと泥が滴るのが見えた


「……水田だから」

「言うのが遅いんだ貴様は!!!」

「ごめんごめん、そこで足洗ったらいいよ」


隅にある蛇口を捻ると冷たい水が溢れる
靴の中まで泥が入ったのか、片足だけ裾を捲くって靴下を脱いで足を洗う


「良いヒラメ筋してんね!」

「貴様なんぞ捕まってしまえ」

「たとえアズカバンの看守でも私を捕らえるのは無理ってもんよ」

残っていた靴と靴下を洗浄魔法でキレイにすると
先ほど足を突っ込んでいた水田に目をやるセブルスがいた

「どうして水を張っているんだ?」

「何?聞いちゃう?私の田んぼ愛聞いちゃう?」

「いややっぱ遠慮してお……」

「ジャパンの土の多くは酸性強めの地質でねー!鉱物成分に植物にあんまりよくないアルミニウムイオンってのが溶けててさ!
んでまた土ん中のアロフェンってのがリン酸を不可逆的に吸着して不溶化するから、普通の畑って向かないんだよ。
でもこの状態は山から流れてきてる栄養とか肥料が水に溶けてくれやすくてね!水田ってのはジャパンにピッタリなんだよーだから同じ島国のイギリスでもいけるかなーって」

「もういい!お前がこれが好きなのはわかったから!」

「お米は日本の心だよ!」

「わかったから!」


お米は日本の心!そう!
じゃぱにーずそうるふーどですよ!

さっき収穫したばかりの野菜を振り回して熱く語ると
もう一つ、セブルスに見せたいものがあったのを思いだす


「これは梅の木でございます!」

「木……?ここに編入して1月も経ってないだろう」

「私って魔法薬の才能あるみたいでさー」


ホグワーツに着てから必死こいて勉強しておいて良かったわマジで
セブルスの得意教科なんて頑張るっきゃないよねー

あ、無農薬だよ!有魔法薬ってだけでギリ有機栽培だから!


「梅も何個か収穫しておこ」

「そろそろ生徒が起き出す時間だ、早くしろ」

「少々お待ちを……あれ、そういやセブルスの用事は?いいの?」

「……いや、今日はいい」


セブルスに急かされながら温室を後にする

厨房に忍び込んであれこれ作り終えると、それらをお盆にのせて広間へと向かった



* * *



「じーちゃんお待たせ!」


教職員席で朝食をとるじーちゃんにお盆にのせていた小鉢を2つプレゼント
長い洋風のテーブルに、日本風の白い小鉢がなんともミスマッチだ


「本日は浅漬けと茄子の煮浸しにしてみました」


これがじーちゃんと交渉した結果
温室を作ってもらう代わりに、そこで採れたモノをこうして献上すること
不定期だけど出来上がったものを調理したり、まぁ薬草なんかはそのまま渡すけど


「これが日本の、ふむふむ……!」

「マーリンの髭だろうそうだろう」

「また腕を上げたの、Cよ」

「あたぼうよ!じゃ、またリクエストあったら梟で!」


お盆を水平に保ったままグリフィンドールのテーブルへ戻ってくると
タイミングよく大広間にやってきたAとBに遭遇した


「あんたは何やってんのよ……」

「朝餉でござる」


友人二人が座ったすぐ横に陣取ると、Bが呆れた顔をしていた
いっつも呆れているよねBは、その顔さえふつくしいから全然OKだけど!

しっかりと両手を合わせてから、MY箸を構えてお椀を手にする


「その皿の中身の話よ、その……なんというか、実家の香りのする」

「THE!朝食ですよ!日本のね!」


Bが指差すのは、私が持参してきた盆の中身

ほかほかの白いご飯、焼き魚、納豆、卵焼き、浅漬け、煮浸し―――まさに日本食、というラインナップ

もうね、正直パンには飽き飽きしてたんですよ!
日本のご飯が恋しくなりすぎて、作っちゃいました

いやぁ!本当に便利だよね!魔法って!

便 利 だ よ !


「でもまだ大豆が育ちきってないからさー、沢山できたら料理の幅も」

「えっ?この大豆とかお米って仕入れてきたんじゃ……」

「C農場直送ですよ安全ですよ多分」


首を傾げているAに、自前の温室の説明をしつつ無農薬アピールをしておく

使ってないよ、農薬とかそんなもん!
まぁ、ただちょっと……魔法薬を垂らしたくらいだよ!


「畑に魔法薬使いまくってるCが目に浮かぶわ」

「最近部屋にフラスコ増えたのって、もしかして」

「……美味しければ許されるのだ」

あっさり秘密の温室は秘密じゃなくなった



* * *



さっさと朝食を済ませて、授業の荷物を取りに一度寮へ戻る事にする
玄関ホールへ出ると、地下へ続く廊下の辺りに見知った香りがした

この薬品臭さは……!消臭しきれていないハナハッカの匂い!セブルス!


「おおお!みーつけた!」

「っ!」


私は彼を発見するなり、プレゼントを渡した

―――否、ブン投げた

見事にそれは顔面にヒットしたが、それと同時に阿修羅のような顔をしたセブルスがこちらへやってくる


「貴様、アズカバンの前に天国へ行きたいらしいな?」

「事故だよ事故、どんまい!」


杖を構えて、今にもアバダケダブラしちゃいそうなセブルスを励ましておく
そうそう、顔面にプレゼントが降ってくる日だってあるんだから!気にすんな!


「なんだこのボールは!」

「あ、お弁当ですよお弁当」

「は?」

「ライスボール!ジャパニーズサンドイッチ的な!そういうやつです!鮭むすびっす!」


オシャレなランチボックスしかなかったから、持ってたハンカチで包んだので中身は見えにくいが
白米+鮭のシンプルイズベストなおにぎりをこさえてみました

あの温室の初めてのお客さんだったしね!是非!


「おいしいよー」

「いるかこんなモン!」

「デリシャスネー」

「カタコトやめろ!」


返す!と言わんばかりにセブルスはおにぎりを突き出してくるが
私はにっこにこ笑って、おにぎり攻撃をかわしつづける


「大丈夫、今回は何も変なもの入ってないから!鮭だけ!ほんと!」

「今回は、ってなんだ」

「とにかく普通だから!」

「……貴様の普通は常識のそれとは違う気もするが」

「美味しさで昇天することはあっても死なないって!じゃ!」

「あっ!おい!待て!」



おにぎり持って追っかけてくるセブルスと追いかけっこ!
青春の1ページっぽくって何だか河原を走りたい!無いけど!湖しかないけど!



今日も朝からセブルスに会えたから、良い事あるに違いない





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