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Imperfect


その日は新しい悪戯をジェームズと成功させて、とてもいい気分だった
談話室の暖炉前で本を読んでいた、Bにも武勇伝を聞かせてやろうと向かいのソファに座ったんだ

そこからが問題だったんだけど


「まだ起きてたのか、B」

ソファで分厚い本を読んでいた彼女に声を掛けたが
熱中しているのか、こちらへ視線をずらさずにいる

Bは、何考えてるか分からない
冷静沈着で、頭の切れも良くて、出来るやつ

何やっても完璧な、そんな女

「ブラックこそ」

「……未だにファミリーネーム呼びかよ」

声だけで俺を判別したのか、ぽつりとそう言った

彼女は親しい者以外、ファミリーネームで呼ぶ
クソ真面目なせいか、他人と距離を置く為の線引きか、分からない

もちろん俺の事も、何時まで経ってもファミリーネームのまま

あまり実家のことが好きではない自分には、なんだか嫌な気分だ
それを分かってるのか、そうでないのか

少し、やきもきする

「名前、呼べよ」

「……必要、ないでしょ」

そう言った彼女は、ちらりと俺のほうを見ると、再び読みかけの本に視線を落とした
ぱちぱちとはねる暖炉の炎に照らされた肌が、妙に赤く艶やかに見える

―――彼女にしてみたら、他人の固有名詞なんて興味ないのかも

なんだか俺という存在さえ認められていないみたいで
ちくりと心臓のあたりが痛くなった

「俺だって、シリウスって名前があるのに」

「そうね」

ぱらり、そんな音を立てて読んでいたページを捲る
俺達以外誰も居ない談話室に、その音がやけに響いたように感じる

「そんなに嫌いか、俺の事」

まるで嫌われているんじゃないかと思って、そんな言葉を口にした

辺境の国から編入してきた同級生と仲良くなりたい、そう思っていた
少しでも打ち解けられたらと、くだらない話も勉強の話も、毎日毎日彼女に話しかけてた

そんな頑張りが無駄になるのも、俺には癪なのだ

「嫌いとか、好きとか……そういうの、関係ないでしょう?」

「じゃあ、なんで」

「同じ寮、同じ学年。それだけじゃない」

確かに、関係無いと言われればそれまでだ

俺と彼女の接点は無い
別に何か得意な授業があったり、クィディッチをやってるわけでもない

友達以下、そう宣告されているような気がして、思わず眉が下に向いてしまう

「……逆に聞くわ。なんで貴方は、私に構うのよ」

本と閉じて、少し顔を上げた彼女がそう言った
勢い良く燃え上がる暖炉の薪より、彼女の手の中の赤い背表紙より、ドクドクうるさい自分の心臓よりも

Bの顔が気になってしまって、目が離せなくなる

「なんでって……」


―――なんでだ?


初めは珍しい編入生と仲良くなりたくて……仲良くなりたいと思ったのは、なんでだ?
思考を辿っていくと、自分の心の中に芽生えていたものが少しずつ見えてきた

「初めは同じ寮同士と思って……」

”仲良くなりたい”

そんな気持ちよりも、次第に他の感情が生まれてしまっていた
それがどんどん大きくなってきてしまったようで

「あー……っと」

Bと2人で談話室で暢気に話してる時が、妙に幸せで
ふとした時に見せる微笑みが、たまらなく綺麗に見えたりして
誰よりも特別になりたくて、自分の名前を呼んで欲しかったり

―――まさか

自覚したくなかった気持ちが、胃の中にずしりとやってきた

「な……なんで、だろうな?」

「私が聞いてるのよ、もう」

質問返しをした俺を、Bは厳しく窘める

「じゃあ、私の読書を邪魔したり授業の邪魔したり悪戯する為に構ってるってことでいいのね?」

「ち、違うって!」

「じゃあ、どう違うのよ。言ってみなさいよ」

いつもポーカーフェイスで完璧なBが不愉快そうな顔で声を張る
怒っているのとは少し違う、なんだか焦りの混じった表情

―――ああ、こんな顔もするんだな

なんて暢気に考えてしまう自分が憎い

かといって自分の気持ちをこの状況で素直に言えるほど、肝も据わっていない
何かこの場を繋ぐ言葉はないかと、脳みその中を探す

「えーっと……」

「……もういい、私寝る」

そんな俺に痺れを切らしたのか、Bはソファから勢いよく立ち上がって
自分の本だけを抱えてそのまま寝室の方へ踵を返した

「っ待てよ、B」

「着いて来ないで!」

彼女が振り返りざまに投げた赤い本を反射的にキャッチしてしまった
視線をそこに戻すと、階段の先にはもうBは居なかった

追いかけたい気持ちもあるが、女子の部屋に男子は入れない

俺は行き場のない気持ちを抱えたまま、深く溜息を吐いて
彼女の投げた本を片手に、その場に立ち尽くす

「明日から、どうしよ……」



ふと、数日前の授業の事を思い出す
円形のシンボルの意味は”大成功”それから”愛”

悪戯作戦は成功だった
……もし、どちらの意味もあるとしたら

こないだのお茶の葉占い、当たってるんじゃないのか?

これが”愛"か、俺はまだ認めたくないけど


不完全な恋心は日に日に大きく成長していく



− − − − −

これって恋ですか

それとも


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