dream | ナノ


Heart beat


ある週末

珍しく窓の外も快晴
四角く切り取られた空は、風景画のように鮮やかだ

生徒はすっかり皆、外出してしまっているようで
いつもの賑やかさはどこかへいってしまっていた

そして、人を呼び出しておいて眠りこけているAに呆れかえる

「…おい」

―――起きない

いつもはちょっとしたことで飛んでくるのに
ソファで小さく丸まって、ぐっすり眠ってしまっている

目覚める気はないようだ


「……」


A

うるさくって、よく騒ぎを起こす
僕のことを追い掛け回している、変なヤツ

こんな晴れた日なら、一番先に外に出てはしゃぎ回っていそうなのに


「おい、起きないのか?」


静かな呼吸音だけが、返ってくる
いつも動き回ってバタバタしているから、こんなに大人しいコイツを見るのは初めてかもしれない

長めの睫毛に、柔らかそうな髪の毛がかかっていて
なんだか何時もと違うコイツに、ちょっとした違和感を感じた

―――静かな図書館に、午後の気だるい空気が流れる

「いつまで寝てるんだ」

しばらく待っても起きる気配がなかったので、頭を小突く

「!?」

びくん!と身体を反応させて、Aが飛び起きる
きょろきょろと辺りを見渡して、何かを探す

「あれ……スイーツの山がない」

「……お前の目の前には羊皮紙と本、羽根ペンしかない」

夢だろ、と言うとAは大人しくソファに座って背中を丸め
甘い夢から現実に引き戻されたことに、小さく溜息を吐いた

「あー、眠っちゃってた。起こしてくれてありがと!」

礼を言うと、テーブルに転がっていた羽根ペンを掴んで、羊皮紙に向かう
明らかに眠る直前、というようなミミズの走った筆跡をぐりぐりと塗りつぶし
その続きからすいすいと滑らかにペンを走らせる

「おい、僕を呼び出したのは」

「ちょっと待って、あとちょっと!これ提出したら!」

話しかけると、それを遮ってペンのスピードを早めた
…少し字が乱雑なような気もしないが

「何書いてるんだ?」

「罰則の書き取りでーす」

「また何かやったか」

「水風船を魔法で作ってうっかり廊下で大爆発して」

「……もういい聞きたくない早く書け」



* * *



「で、用ってのは……これなのか?」

Aの書き取りのせいで、日が落ち始めた空と
片手に持った箒を見て、小さく溜息を吐く

罰則を提出したその足で、そのままクィディッチ競技場に連れてこられた

冷たい風が服の隙間から入り込み、体温が下がってくるのを感じる
そんなこともお構いなしに、Aはにこにこと笑う

「そう!シーカーってこれ捕まえるんでしょ!」

ぱ、と開いた手のひらには―――金のスニッチ

「っちょっと待て!どこから持ってきた!」

「裏にあった箱から!」

用具の入った木箱から、スニッチだけ持ち出してきたらしい

銀の羽を広げたかと思うと、そのままスニッチは物凄い速さで飛んでいってしまった

「おー、早い早い!もう見えなくなった!」

「お前なぁ……」

「レギュラスあれ捕まえて!」

「頼まれなくたって、捕まえて片付けないと帰れないだろ……」

すっかり見失ってしまったが、試合と違って他の選手も邪魔なブラッジャーもない
まぁ、ちょっと飛んでいれば見つけられそうな環境だ

先ほどより冷えた風は吹き荒んでいたが、そう難しいことではない

「さっむ……」

ひゅう、と吹いた風がローブをぱたぱたと煽る

「そんな薄着で来るからだ」

「大丈夫!耐えられる!いける!」

早く飛んで、と急かすA

頬を赤くして自分のローブをぐるぐると身体に巻いて
大丈夫、という割には鼻をすすったりしている

―――我慢してるって、分かるのに


「これ、羽織ってろ」


自分のローブをAの頭に被せる

僕より幾分か小さいせいで、足元まですっぽりと覆われている

「!」

ひょこりとローブの間から顔を出したかと思うと
目を見開いて、何か言いたげな表情で口をぱくぱくと動かしてる

「汚すなよ」

忠告を発したところで、視界の端にスニッチを見つけ、箒で飛び上がった






「レギュラスやばい、惚れ直した」

しばらくして、なんなくスニッチを捕まえた僕は
Aのよく分からない賞賛の声をBGMに、金のスニッチと箒を片付ける

「シーカーって凄い!」

さっきからこんな調子で思ったことを口走っている
きらきらと目を輝かせて、いかに面白かったかを伝えようとしてくる

「次の試合、私応援頑張るから!」

「あー、わかった。わかったから……」

にっこり笑う、何時も以上の笑顔
―――そんな顔されたら、こっちが照れる

逸る鼓動が、その笑顔に毒された血液を体中に回していく

「レギュラ」

「わかった、お前がクィディッチを好きになってくれたのは分かったから」

ぽん、ぽん

少し落ち着いて欲しくて、頭に手をやっていたのが
Aの頭を撫でている、という行為だということに―――やってから、気付いた

「あ、あわ……!」

意味の分からない言葉を、途切れ途切れに発するA


やってしまった


「か、帰るぞ!」

慌ててAの腕を掴む

出口に向かって足を向ける


「!」


―――勢いにまかせ、手を繋いでしまったことに、やってから気付く


けれど、僕の手は掴んだまま放そうとしない

足も歩みを止めることをしない

言葉も、喉から先に出て行かない


「……ッ」

心では恥ずかしさがいっぱいになっているのに

身体はAに触れていたくて、しかたない

意志と動きがバラバラ

身体が言うことを聞かないっていうのは、まさにこういう事なんだと知った

「レ、ギュラス」

「……うるさい」




二人の顔が赤く染まっているのは、夕焼けのせい

ローブの隙間から繋がれた手は、この寒さのせい
服従呪文でもかけられたみたいだった



騒がしい鼓動は、しばらく続く



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二人きりの場所

二人だけの時間


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