dream | ナノ


act.032

今日は朝から問題ばかり
煙突飛行でハリーが行方不明になったのだ

ハグリッドと一緒に薄暗い路地から出てきた時は、皆は目を丸くして驚いた


「それで"ボージン・アンド・バークス"の店で誰に会ったと思う?」

ハリーはグリンゴッツの階段を上りながら、すぐ横を歩くハーマイオニーとロン、私を見て問い掛けた

煙突飛行に失敗したハリーは、先程まで夜の闇横丁のその店にいたらしい


「マルフォイと父親なんだ」

「ルシウス・マルフォイは、何か買ったのかね?」

それを聞いていたおじさまが、私達の後ろから厳しい声でそう言った

「いいえ、売ってました」

「それじゃ、心配になったわけだ。ああ、ルシウス・マルフォイの尻尾を掴みたいものだ……」

「アーサー、気を付けないと」

真顔のおじさまが何処か嬉しそうにそう言うと、おばさまはすぐさま言い返した

「あの家族は厄介よ、無理して火傷しないように」

「何かね、私がルシウス・マルフォイに敵わないとでも?」

―――流石は犬猿の仲
純血主義のルシウスさんと新マグル派のアーサーおじさまの仲は、やはり最悪らしい

それから皆がお金を下ろすと、各自必要なものを買う為に別行動になった
1時間後にフローリシュ・アンド・ブロッツ書店で待ち合わせだ

私達は、それまで散歩をしながら時間を潰す事にした

「苺とピーナッツバターなんて、すごい組み合わせ」

「結構美味しいよ、ほら」

「んー……悪くないかも?」

ハリーとロン、ハーマイオニーと私の4人はパーラーでアイスクリームを買い
それを食べながらウィンドウショッピング中

「ロンは何だっけ?」

「チョコレートだよ、全部ね」

ロンはそう言うと、食べかけのアイスクリームを皆の前に差し出した
各々のスプーンで1口ずつ貰って、違う味を試す

「こっちはビターだね、白いのもチョコレート?」

「うん、僕こっちの方が好きかも」

「私のもどうぞ、ベリーとチーズよ」

「こう言う組み合わせも良いね、美味しい!」

皆で回すようにアイスクリームを食べ、色んな組み合わせも試したが
どれもこれも美味しくて、あっという間に無くなってしまった

「ああ!見て、ハリー!あのユニフォーム!」

「ちょ、ちょっと待ってよロン!」

高級クィディッチ用具店の前に来ると、ロンはハリーを引き摺ってウィンドウの前で固まってしまった
私とハーマイオニーは溜息を吐いて、2人を見る

「2人共、私達は隣のお店でインクを買ってきますからね!」

「そこを動かないで待っていてくれると有り難いんだけど……ハリー」

「うん、ロンはこの調子だし、今のうちに行ってきて」

チャドリー・キャノンズのユニフォーム一式に見惚れているロンをハリーに預け
私とハーマイオニーは羊皮紙とインクを買い込む事にした

買い物を終えてギャンボル・アンド・ジェイプス悪戯専門店の前を通り掛かると
タイミング良くフレッドとジョージ、それから彼らの友人リー・ジョーダンの3人組に会った

「おお、丁度いい所に!お嬢、コイツを見てくれ!」

「……何?それ」

「え、知らないの?ドクター・フィリバスターの長々花火と火無しで火がつくヒヤヒヤ花火だよ」

フレッドが差し出したパッケージに商品名が書かれていた
リーの説明無しでも、どんな商品なのか見ただけで分かってしまうくらいには、派手だ

「どっちか買おうと思うんだけど……成分表見てくれない?どっちが威力高いかな」

「ジョージ、私に悪の道を歩ませないでくれる?」

「何言ってるんだ、もう片足突っ込んだろ?」

ジョージの返答に、隣のハーマイオニーが反応した
こちらを見る眼差しが、些か冷ややかな気がする

「あら、貴方みたいな優等生が悪戯に加担してるの?興味深いわね」

「は、ハーマイオニー、誤解だよ!フレッド達が無理矢理」

「……まぁ、そうでしょうとも、ちゃんと分かってます。2人共、女の子をそういった事に巻き込まないで下さる?」

「ハーマイオニー、もう遅いぜ。お嬢はこっちのモンさ」

「その花火を寮で使ったら直ぐ様マクゴナガル先生にお知らせするわ、行きましょ!」

フレッドのしたり顔に、ハーマイオニーがぴしゃりと答えると
私の腕を引っ張って店を後にした



* * *


あっという間の1時間を過ごし、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店へ向かうと、店の前は人で溢れている
原因は店の窓に貼られた横断幕だと、すぐに分かった

サイン会 ギルデロイ・ロックハート
自伝"私はマジックだ"
本日午後12:30〜4:30

「本物の彼に会えるわ!」

ハーマイオニーが黄色い声でそう言ったので、ハリーとロンは顔を顰めた

「だって、彼って、リストにある教科書をほとんど全部書いてるじゃない!」

「あー、うん。そうだけど」

「早く行きましょう!」

ハーマイオニーに連れられて、私達は人垣を押し分けて店内へと進んだ
教科書リストにあった本を引っ掴むと、ハリーとロン、ハーマイオニーはちゃっかりとウィーズリー一家とグレンジャー夫妻が並んでいる間に入り込んだ

「あれ?名前は並ばないの?」

「あー、うん。興味無いから、お会計だけでいいや。皆はサイン貰っといでよ」

ハリーの声にそう返すと、それに反応して周りのマダムがこちらを睨んできた
私はリストの本を買い込むと、逃げるように2階の本棚の陰に隠れた

下の階は本屋らしからぬ騒々しさで、ゆっくり本も選べそうにない
久々に来たのだから、もう少しのんびりしたい

「えーと……」

年代物の本があるコーナーで立ち止まり、面白そうな本を探す

禁書とまでは行かないが、ちょっと怪しい闇の魔術に関する本や、魔法理に関する本

この辺は昔、読んだことがあったかな……

「あ」

「あぁ、これは失礼……」

同じ本を取ろうとして、隣の人と指が触れてしまった
私は慌てて手を引っ込めると、右を見た

「……え、と」

長く伸びた色素の薄い髪
血色の悪い顔に、鋭い薄灰色の瞳

ルシウスさんが、真横に立っていた

「……君、この本に興味が?」

「え、あ、いや、昔読んだことがあって」

私は彼を見上げるのを止め、咄嗟に顔を背けた

この至近距離では、顔が見えてしまう
頭を触るフリをして、前髪でしっかりと顔に影を作る

「難しい本だが、大したものだな」

「い、いえ」

ルシウスさんは棚から取り出した本をパラパラと捲って静かにそう言った

セブルスの特製縮み薬に、ダンブルドアの変身術があればバレる事は無いと思うけど
無駄に接点を作って不審がられるのも面倒だ

「君……」

「あの!私、下に友人を待たせているので……ご、ごゆっくり!」

くるりと背を向けた私は、なるべく静かに階段を駆け下りる

本を抱えたまま視線で友人達を探すと、少し先に見慣れた赤毛を発見した

「ロン、ハーマイオニー!」

「名前!探してたんだ!」

「もう、どこに行ってたの?」

サインを貰ったのか、ハーマイオニーは上機嫌だった
その分、ロンは疲弊しているようだけど

「ごめん、人が多いから上で本を探してた。ハリーはどうしたの?」

「この人混みではぐれたの、こっちに来たと思ったんだけど……」

きょろきょろと辺りを見回すと、人混みの奥に見慣れた赤毛が見えた
恐らくハリーも一緒だろう

「……あの奥にいるの、ジニーとハリーじゃない?」

「こういう時、赤毛って役立つよな、全く」

ロンは怒りっぽくそう言うと、出口の方へと進んでいったので
私とハーマイオニーはその後ろを着いて行った

「なんだ、君か」

人混みを抜けると、飛んできたのは嫌味ったらしい声だった
ちょうどドラコとハリーが言い合いをしている所に出くわしたらしい

「ハリーがここにいるので驚いたっていうわけか、え?」

「ウィーズリー、君がこの店にいるのを見てもっと驚いたよ」

ロンが嫌そうな顔でドラコに声をかけると、ドラコも同じように顔を顰めてロンに返した
相変わらず仲は最悪だ

「そんなに沢山買い込んで、君の両親はこれから1ヶ月は飲まず食わずだろうね」

それを聞いたロンは、顔を赤くした
抱えていた本をジニーの持つ鍋に入れると、ドラコの方へ進んだが
ハリーとハーマイオニーが、しっかりロンの上着を掴んで阻止していた

「ロン!」

ちょうど、おじさまとフレッド、ジョージが一緒になって此方へ向かっていた
呼びかけられた事で、ロンは我に返ったようだ

「何してるんだ?ここは酷いもんだ、早く外に出よう」

「これは、これは、これは……アーサー・ウィーズリー」

「ルシウス」

階段から降りてきた彼は、息子のドラコの肩に手を置いて、薄い笑みを顔に貼り付けている
おじさまは何とも言えない表情で、首だけ傾けて素っ気無い挨拶をした

「お役所は忙しいらしいですな。あれだけ何回も抜き打ち調査を……残業代は当然払ってもらっているのでしょうな?」

ルシウスさんはそう言うと、ジニーの大鍋から使い古しの擦り切れた本を選んで、一冊引っ張り出した
豪華な装丁のロックハートの本ではなく、あえて古びた変身術入門を選んでくるあたり、抜け目無い

「……どうもそうではないらしい。なんと、役所が満足に給料も支払わないのでは、わざわざ魔法使いの面汚しになる甲斐がないですねぇ?」

「マルフォイ、魔法使いの面汚しがどういう意味かについて、私達は意見が違うようだが」

「さようですな」

ルシウスさんは視線をおじさまから外すと、グレンジャー夫妻の方に向けた

「ウィーズリー、こんな連中と付き合っているようでは……君の家族はもう落ちるところまで落ちたと思っていたんですがねぇ」

「―――ッ!」

それを聞いたおじさまは、激昂し飛び掛かった

ルシウスさんが本棚に背中を打ち付けたせいで、分厚い本が頭の上へ降ってくる

「やっつけろ、パパ!」

「もう、フレッド!煽らないで!」

「アーサー、だめ、やめて!」

親同士の取っ組み合いを見て、フレッドが叫ぶ
すぐ横でおばさまも悲鳴を上げながらおじさまを静止するが、それも届かない

「ちょっと、おじさま!もう止めて!」

「お客様、どうかおやめを……どうか!」

人垣が後退り、弾みでまた本棚にぶつかり本が降ってくる
書店の店員も弱々しく言うが、おじさまとルシウスさんは止まりそうもない

「やめんかい、おっさん達、やめんかい!」

一際大きな声が聞こえた―――ハグリッドだ

崩れた本の山を掻き分けてやって来ると、取っ組み合ってるおじさまとルシウスさんを引き離した

おじさまは唇を切っているし、ルシウスさんは目を打たれたのか、瞼が赤い

「ほら、チビ……君の本だ。君の父親にしてみればこれが精一杯だろう」

立ち上がった彼は、手にしたままだったジニーの".変身術入門"を突き出した

ドラコに目配せし、薄灰色の瞳で此方を一瞥すると、さっさと店から出ていった

ハグリッドはおじさまを立たせると一通りマルフォイ一家の悪口を言ってから、皆に声を掛けた

「さぁ、みんな。さっさと出んかい」

店の外に出ると、途端におばさまの雷が落ちた
ロン達が魔法の車を飛ばした時と違い、今日はワナワナと震えている
「子供達に、なんて" 良いお手本 "を見せてくれたものですこと……公衆の面前で取っ組み合いなんて、ギルデロイ・ロックハートが一体どう思ったか」

「あいつ、喜んでたぜ」

おばさまに聞こえないように、フレッドは控えめな声で言った

「店を出る時あいつが言ってた事、聞かなかったの?あの"日刊予言者新聞"の奴に、喧嘩の事を記事にしてくれないかって頼んでたよ。なんでも、宣伝になるからって言ってたな」

「使えるものは使う主義みたいだね」



* * *



その日はずっとおばさまの小言を聞いていたせいか、就寝時間までおじさまはしょんぼりしていた
それでもあの取っ組み合いのおかげで、子供達からの評価は上がっているのだが

ベッドに入り、カレンダーを眺めながら残りの夏休みの日数を数える

感のいいルシウスさんの事だ
今日の様子では、面倒事になりかねない
……夏休みが明けたら、暫くはドラコにも近づかないでおこう

「あっという間だったなぁ、夏休み」

『また学校に戻るのか』

枕元で上体を起こしながら、白蛇が話し掛ける
白いシーツの上では殆ど居る場所が分からないので、私はなるべくゆっくりとカレンダーを戻した

『あと少しでね。蛇語、喋っちゃ駄目だよ』

『一体何時になれば昔のように話せるのだ』

『もう少し、我慢してね』

カチリとサイドランプを消せば、静かな闇がやってくる
私は瞼を閉じ、2年目のホグワーツに想いを馳せながら眠りにつくことにした



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夏休みが終われば

また、はじまる


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