dream | ナノ


act.031

夏の朝の心地良い眠りは、大きな怒声で終わりを告げた

寝起きの瞼をぱちぱちと動かし、のんびりとベッドから這い出る
着替えの最中だって、お説教はBGMのように階下から聞こえてきていた

「あー……おかえり、なのかな?」

「……た、ただいま、お嬢」

「おはよ、ハリー」

「お、おはよう、名前」

階段を降りた先では、モリーおばさまにこってりと絞られたフレッドとジョージ、ロン、それからハリーが眉を下げて立っていた

魔法省からの公式警告状の件と、ハリーから便りがない事を心配したロン達は
アーサーおじさまの魔法の車を拝借してハリーの救出に向かっていたのだ

それを知ったおばさまのお説教が、さっきの怒声

「あらおはよう、名前。起こしてしまった?」

「おはようございます、おばさま。朝ごはんには丁度良い時間だと思いますよ」

「……そうね。さあ、ハリーも朝食をどうぞ」

おばさまはフライパンにソーセージをゴロゴロと放り込んで、ぶつぶつと文句を続けた
香ばしい匂いが、鼻を擽る

「お前達ときたら、一体何を考えてるやら」

「まぁ、おばさま。皆ハリーが心配だったのよ、ね?」

「それにしても、こんなこと絶対思ってもみなかったわ……ああ、貴方の事は責めてませんよ、ハリー」

おばさまがフライパンを傾けて、ハリーのお皿にソーセージを沢山乗せた
それからロン、フレッド、ジョージ、私の前にも、ソーセージが山盛りにされる

「アーサーと二人で貴方の事を心配していたの。昨夜も金曜日までに貴方からロンへの返事が無かったら、私達が貴方を迎えに行こうって話をしていたぐらいよ」

おばさまはそう話しながら、今度は目玉焼きを3つハリーのお皿に盛った
私は隙を見て自分のソーセージをジョージの皿へ乗せて、おばさまの方を注視する

「不正使用の車で国中の空の半分も飛んでくるなんて、誰かに見られてもおかしくないでしょう」

「ママ、曇り空だったよ!」

「物を食べてる時はおしゃべりしないこと!」

そう言ったフレッドに、おばさまがぴしゃりと反論して杖を一振りすると
シンクの中で食器がかちゃかちゃと音を立てて勝手に洗われだした
何度見ても不可思議で、魔法使いの世界らしい光景だ

「ママ、連中はハリーを餓死させるトコだったんだよ!」

「お前もお黙り!」

フレッドの代わりに口を開いたジョージも叱られ、食卓は静かになる

黙々と朝食を口へ運んでいると、ぱたぱたと足音が聞こえてきた
現れたのは、寝起きの女の子

「キャッ」

こちらを見るなり、小さな悲鳴をあげて走り去る

「ジニー、妹だ。夏休み中ずっと、君の事ばっかり話してたよ」

「ああ、ハリー。君のサインを欲しがるぜ」

簡単に妹を紹介したロンに、フレッドが笑いながらハリーに話し掛けたが
おばさまと目を合わせると慌てて俯き、朝食を再開した

静かすぎる朝食を終わらせる為に皆は一生懸命手と口を動かし、
あっという間にお皿は空っぽ

「なんだか疲れたぜ。僕、ベッドに行って……」

「行きませんよ」

ナイフとフォークを置いて欠伸をしたフレッドに、おばさまがそう言った
それを聞いたジョージとロンは、咄嗟におばさまの方を見る

「夜中起きていたのは自分が悪いんです。庭に出て庭小人を駆除しなさい、また手に負えないぐらい増えています」

「ママ、そんな……」

「お前達二人もです」

おばさまに睨みつけられたジョージとロンは、肩を落として外を見た

「ハリー。貴方は上に行ってお休みなさいな、あのしょうもない車を飛ばせてくれって、貴方が頼んだわけじゃないんですもの」

「あー……僕、ロンの手伝いをします。庭小人駆除って見たことがありませんし」

「まぁ、優しい子ね。でもつまらない仕事なのよ」

それからおばさまが夢中になっているギルデロイ・ロックハートの本を引っ張り出したので
皆は足早に外に出て、庭小人の駆除を始めた

「おばさま、お茶でも淹れましょうか」

「あら、じゃあお願いするわ。名前はロックハートの本は読んだ?」

食卓の片付けも済み、おばさまにお茶を勧めると
先ほど話題に上がったロックハートの話題が止まらなくなる

「あー……ええ、幾つかは」

「それじゃ、あの本は読んだかしら?最近出たんだけれど……」

流行作家の話題は止まらない
お茶と一緒に取り出したお菓子が無くなっても、ジニーやパーシーが降りてきても、おばさまのトークは止まらなかった



* * *



しばらくして玄関のドアが開いた事で、ようやく話が終わった

「アーサー、お帰りなさい」

「ああ、ただいま。モリー」

仕事から戻ったおじさまは酷く疲れていて、椅子に座ると眼鏡を外して息を吐いた

ドアの音を聞きつけてロン達も戻ってきたので、私は人数分のお茶を淹れる

「酷い夜だったよ」

「おじさま、お茶どうぞ」

「ああ、ありがとう。名前」

おじさまはお茶を受け取ると、少し冷ますように息を吹きかけた
草臥れた緑のローブが哀愁を感じさせる

「9件も抜き打ち調査したよ、9件もだぞ!マンダンガス・フレッチャーのやつめ、私がちょっと後ろを向いた隙に呪いをかけようと……」

そう言って一口お茶を飲み、溜息を吐いた

「パパ、何か面白いもの見つけた?」

「私が押収したのは、せいぜい縮む鍵数個と、噛み付くヤカンが1個だけだった」

おじさまはティーカップを置いて、欠伸をひとつした

「かなり凄いものも1つあったが私の管轄じゃなかった。モートレイクが引っ張られて、何やら酷く奇妙なイタチの事で尋問を受ける事になったが、ありゃ、実験的呪文委員会の管轄だ。やれやれ……」

「鍵なんか縮むようにして、何になるの?」

ジョージがおじさまの仕事に興味を持ち……もとい、悪戯のネタになりそうな事はないかと話を掘り下げるので
おじさまもそれに応えるようにして話を続けていた

「……しかし、我々の仲間が魔法をかけた物ときたら、まったく途方もない物が」

「例えば車なんか?」

火掻き棒を持ったおばさまが、そう言って睨みをきかせた
眠たげにしていたおじさまは、ぱちりと目を開けて顔をヒクつかせる

「モリー、母さんや。く、くるまとは?」

「ええ、アーサー……そのくるまです。ある魔法使いが、錆び付いたおんぼろ車を買って、奥さんには仕組みを調べるので分解するとかなんとか言って、実は呪文をかけて車が飛べるようにした、というお話がありますわ」

「ねぇ、母さん。分かってもらえると思うが、それをやった人は法律の許す範囲でやっているんで、ただ、えーその人はむしろ、えへん、奥さんに、なんだ、それ、ホントのことを……」

冷や汗だらけのおじさまは、言葉も切れぎれにそう返した
……勿論、その車を改造したのはおじさまなのだが

「法律と言うのは知っての通り、抜け穴があって……その車を飛ばすつもりがなければ、その車がたとえ飛ぶ能力を持っていたとしても、それは」

「アーサー・ウィーズリー。貴方が法律を作った時に、しっかりと抜け穴を書き込んだんでしょう!」

張り上げられた声に、その場にいた全員が飛び上がった
怒っているおばさま程、恐ろしいものは無い

「貴方が納屋一杯のマグルのガラクタに悪戯したいから、だからそうしたんでしょう!申し上げますが、ハリーが今朝到着しましたよ、貴方が飛ばすおつもりが無いと言った車でね!」

「……ハリー?どのハリーだね?」

首を傾げたおじさまは、そのまま部屋をぐるりと見渡す
それからハリーと視線を合わせると、驚いた様に立ち上がった

「なんとまあ、ハリー・ポッター君かい?よく来てくれた、ロンがいつも君の事を……」

「貴方の息子達が、昨夜ハリーの家まで車を飛ばしてまた戻ってきたんです!」

怒鳴り続けるおばさまの声はもう枯れかけだった

それはそうだろう
朝イチでロン達を怒鳴りつけ、帰宅してきた夫にも同じ事をすれば、喉がカラカラになるのも時間の問題だった

「何か仰りたい事はありませんの?え?」

「やったのか?うまくいったのか?つ、つまりだ……」

車の改造が上手くいったか気になるのか、おじさまはウズウズしながらそう言ったが
おばさまの眉間に皺が増えたので、慌てて口調を変えた

「そ、それは、お前達、いかん……そりゃ、絶対いかん……!」

「アーサー、貴方って人は……!」

「ま、まあ、おばさま、朝から怒りっぱなしで身体に悪いですよ。さぁ、お茶をどうぞ?」

更に声を張り上げたおばさまを宥めて、どうにか座らせる
入れ直したお茶をカップに注いでいると、その隙にとロンはハリーを連れて部屋へと向かってしまった

「あんまり気にするなよ、お嬢。パパのガラクタ好きは今に始まった事じゃないんだ」

「そう考えると、僕らってパパの子だよなって思うよ」

残されたフレッドとジョージはいつもの事だとお茶を啜り、呑気にお菓子を齧っていた
怒られていた事なんて、すっかり忘れてしまったかのようだ

「ああ、名前がうちの子ならどんなに良かったか……お前達にも見習ってほしいくらいですよ」

「ママ、お嬢だって学校では結構やんちゃだよ」

「そうそう、学年末も……んぐ!」

余計な事を言おうとしたフレッドの口を抑え、苦笑いを顔に貼り付ける

「ああ、フレッドったら口の横にクッキーのくずが付いてるよ?」

「んん……?!」

今年はただでさえおばさまには心労をかける事になるんだから、余計な話はしなくていい
心配事なんて増えなくて良いに決まってる

「おばさま、私達上に行って課題を片付けることにします。ねぇ?ジョージ」

「う、うん!早めに片付けたいし!なぁ、フレッド!」

フレッドは口を抑えられたまま、頭を上下に動かして頷く素振りを見せた

しばらくは大人しくしている事と条件を付けられはしたが
私達はそれに同意して、フレッド、ジョージの部屋へと駆け込んだのであった


「何だよ、お嬢!あれくらいの話……」

「お説教から連れ出すには良いタイミングだったでしょ?それとも、あそこに残っておじさまとおばさまの言い合いに巻き込まれたかった?」

私の言葉にフレッドが言い返そうとしたが
それを静止するようにジョージが彼の肩を叩いた

「フレッド、そんな事より、もっと重要な案件が目の前にあるぜ」

「……ふっふっふ、ようやく我が城へ足を踏み入れてくれたね!お姫様!」

「……あっ」

此処はフレッドとジョージの部屋

ウィーズリー家に来てから幾度となく悪戯実験に付き合わされそうになったが、その度に上手くかわしていた

しかし、ついに2人の部屋に足を踏み入れてしまった

「さぁ!何からやろうか!新しく試したい事が山ほどあるんだ!」

「フレッド、まずはこの間の案を」

「いやいやジョージ、折角お嬢がいるんだから難易度が高いものから……」

「……あー、私、パーシーに本を返してこないと」

そろりとドアの方へ後退ると、フレッドとジョージが更に距離を詰めてくる

「やるんだろ?課題を」

「まぁ、何の課題とは言ってなかったよね、名前?」

「いや、でも、悪戯は……」

ドアを開けて逃げ出す隙さえ無い

右手をフレッド、左手をジョージにがっちりと掴まれる

……2人の視線が、怖い

「もう逃げられないよ」

「覚悟を決めるんだな」


その剣幕に、私は負けた
ほんの少しだけ魔法薬の講義をし
2人に新たな知識を与えてしまいました

新学期から、被害者が増えるかもしれないけど……怒られるのはフレッドとジョージだし

夏休みは、あと1ヶ月

まだまだ思い出は増えていく

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滲む汗、流れる青春

のんびりした毎日


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