dream | ナノ


act.026


ホグワーツが深い雪に覆われる
湖は凍りつき、冷たい風が頬を刺す冬がやってきた

季節は12月

「メリークリスマス!」

クィディッチの試合でハリーが見事スニッチをキャッチ……もとい、飲み込んだ後
うっかり口を滑らせたハグリットから得たキーワード

”ニコラス・フラメル”

11月と12月は、ほとんどそのニコラス・フラメルというワードを探していた

でも、こんな日くらいは何も考えずに平和な一日を過ごしたい

幸い、熱心にフラメルを調べていたハーマイオニーは自分の家へと帰省中だし、羽を伸ばすにはちょうど良い

男子の部屋から聞こえる賑やかな声につられた私は
自分に届いたプレゼントを引っ掴んで、彼らの元を訪れた

「おはよう。ハリー、ロン」

「名前、メリークリスマス!」

「メリークリスマス、今プレゼントを開けてる最中なんだ」

元気に挨拶をするハリーは、くしゃくしゃの包み紙を両手に
ロンも包み紙とリボンに悪戦苦闘しながらプレゼントを開けている

部屋の行き来に口煩いロンも、今日ばかりは何も言わない

「ハリーはどんなプレゼントだったの?」

「おじさんとこからと、ハグリットからと……あと、これは誰からだろう?」

雑な文字のメモ紙、荒削りの木で出来た横笛
それからハリーが取り出したのは、大きな包みだ

「僕、誰からだか分かるよ」

ロンは顔を赤らめて、ハリーの持つ包みを指差す
もこもことしたそれは、包みもハンドメイドらしく手作り感が溢れている

「それ、ママからだよ。君がプレゼントを貰うアテがないって知らせたんだ」

「じゃあロンのお母様の手作り、とか?」

「そうさ。でも……あーあ、まさか”ウィーズリー家特製セーター”を君に贈るなんて」

呻くロンをよそにハリーが包み紙を破ると、鮮やかな色が飛び出した

中身は手編みのエメラルドグリーンのセーター
それと、大きな箱に入ったホームメイドファッジだった

「ママは毎年僕達のセーターを編むんだ」

「素敵なお母様じゃないの」

ロンも同じくもこもことした包みを破る
すると今度は栗色の手編みのセーターが飛び出す

「僕のは何時だって栗色なんだ」

「君のママって本当に優しいね」

「栗色もいいと思うけど、ロン」

ハリーと一緒にそう声を掛けると、ロンはいそいそと包みとセーターを背に隠した

「ほら名前、君も開けるといいよ」

「あー……これは」

「君のおじいちゃんからだ」

洒落たカードと、そこに施された長すぎる署名で一目瞭然
ダンブルドアからのプレゼントは、小さな瓶に入った飴のようだ

”とても美味しいキャンディだったのでお裾分けを”

とだけ書かれているので、魔法薬が入っていたり、怪しい呪文が掛かっているわけではなさそうだ

「随分綺麗なキャンディだね」

「……小洒落た物を探してくるなぁ、お爺様は」

生まれ育った日本では見慣れた、色とりどりの砂糖菓子―――金平糖
乳白色がかったそれは、久しく忘れていた元の世界を思い出させるには十分なものだった

「それから、これ。名前が無いんだけど」

「……あー、多分想像付く」

深緑色の包みに黒いリボン

中身は持ち歩くのに丁度いいサイズの木製の収納ケース
それから小瓶のセットと、小難しい魔法薬関連の本が3冊入っていた

言わずもがな、セブルスからの贈り物だろう

「ハリー、そっちの包みはもう開けたもの?」

「あ、忘れてた!」

端から持ってきた包みをハリーが開く

銀鼠色のキラキラしたものが、床へと滑り落ちていく
まるで星座を集めてきたような輝きは、彼の足元へと折り重なった

ハリーはそれが何なのか分からずに、少しだけ首を傾げた

「僕、これが何なのか聞いたことがある」

ロンがハッとしたように顔色を変える

ハーマイオニーから贈られた百味ビーンズの箱を落っことし
辺り一面をカラフルなジェリービーンズまみれにしたまま、声を潜めた

「もし僕の考えているものなら……とても珍しくて、とっても貴重なものなんだ」

「なんだい?」

ハリーは足元にあったそれを掬うようにして拾い上げ
不可思議そうな顔をして、それを見つめた

「これは透明マントだ」

透明マント

そう言ったロンは一気に興奮したようだ
畏れ敬うような声を出して、マントを着てみるようにハリーに促す

ばさりとそれを翻すようにして肩から掛けると、ロンが叫び声を上げた

「そうだよ!下をみてごらん!」

「ハリー、鏡を見てみて。首から下が映ってない」

ハリーの身体が無く、まるで首だけ浮いているように見える
透明マントのある部分だけが、まさしく”透明”になっているのだ

マントを頭の上まで引き上げると、ハリーは完全に視界から消えた

「手紙があるよ!マントから手紙が落ちたよ!」

これ以上ないくらいにロンが興奮している

まぁ、ポッター家の家宝とされるくらいのものだ
魔法界でもとっても貴重なのが、彼の様子からも伺える

「こういうマントを手に入れる為だったら、僕、なんでもあげちゃう。ほんとになんでもだよ」

「落ち着きなよロン……どうかした?ハリー」

マントに見とれているロンとは対照的に、ぴたりと止まっているハリー
拾い上げた手紙を読んでから暫く停止していたので、声をかける

「ううん、なんでもない」

ハリーがつれない返事を返してきた途端

―――バターン!

と、大きな音を立てて寝室のドアが勢い良く開いた
朝から元気のいい、フレッドとジョージだ

二人が騒ぎながら寝室へと入ってきたので、ハリーは慌ててマントを隠した

「メリークリスマス!」

「おい、見ろよ―――ハリーもウィーズリー家のセーターを持ってるぜ!」

二人は既にプレゼントを開けたようで、お揃いの青いセーターを着ていた
フレッドにはF、ジョージにはG、と黄色の文字でイニシャルが入っている

「でもハリーの方が上等だな」

フレッドがハリーのセーターを手にとって確認する
確かに編み目もしっかりしていて、他の物よりも綺麗に仕上がっていた

「ママは身内じゃないとますます力が入るんだよ」

「ロン、どうして着ないんだい?着ろよ。とっても暖かいじゃないか」

セーターを着ていなかったロンを、ジョージが急かすので
気乗りしない様子のまま、ロンは栗色のセーターを頭から被った

「僕、栗色が嫌いなんだ」

頭を出しながら、呻くように呟いたので
ジョージがあることに気がついたようだった

「イニシャルが付いてないな」

付け忘れたのか、それとも他に理由があるのか
ロンのセーターにはイニシャルの文字が付いていなかった

「ママはお前なら自分の名前を忘れないと思ったんだろう。でも僕達だってバカじゃないさ」

「自分の名前ぐらい覚えているよ、グレッドとフォージさ」

フレッドとジョージがおどけ、一瞬で雰囲気を変えてみせる
その賑やかさにつられてやってきたのか、更に来客が増える

「この騒ぎはなんだい?」

「ハイ、パーシー。メリークリスマス」

「メリークリスマス、名前」

彼らの兄であるパーシーが、小脇にプレゼントを抱えたまま様子を見にやってきた

どうやらプレゼントを開ける途中だったらしく
隙間からウィーズリー家特製手編みのセーターが顔を覗かせていた

それに気付いたフレッドが、パーシーのセーターを取り上げる
無理やりにでも着せようと、彼の眼鏡がずれるのもお構いなしに頭からセーターを被せた

「いいかい、君はいつも監督生達と一緒のテーブルにつくんだろうけど、今日だけはダメだぞ」

「だってクリスマスは家族が一緒になって祝うものだろ」

フレッドとジョージはそう言って、セーターを着せ終わったパーシーを引き摺って寝室を後にした

「ロン、とってもいいお兄さんじゃない」

「僕、羨ましいよ」

「……うん!」

私とハリーがほっこりしたまま笑みを浮かべてそう言うと
ロンは何処となく誇らしげな笑顔で、返事をしてくれた



* * *



「で、何故我輩の部屋にいるのかね」

「私もセブルスもこの学校でクリスマスを過ごすんだから、問題ないよ」

「さっぱり、何がいいのか分からんな」

クリスマスディナーを堪能した後、私が向かったのはセブルスの自室だった

学校が休暇中でもクリスマスでも変わらず薬を飲まなければいけないので
それを週に一度受け取るついでにと、お茶会が恒例化しつつあった

「私の贈ったプレゼント、気に入った?」

「丁度底を尽きかけていたのでな」

「良かった、魔法薬の材料なら絶対外さないと思ったよ」

縮み薬の材料は勿論、彼が普段から愛用している数種類の材料
プレゼントにしては少々グロテスクなものもあったが、実用的な物の方が良い

それから、今朝届いた彼からのプレゼントのお礼も忘れてはいけない

「プレゼントありがとう」

「あれなら、役立つだろう」

「趣味の方で活躍させると思うけどね」

暖房の利いた部屋で、暖かいお茶を楽しむ

お茶菓子には、ダンブルドアから送られた金平糖
それからクリスマスらしくデコレーションされたマフィン

「ねぇ、セブルス」

一齧りしたお茶菓子を置いてから、私はセブルスに話しかける
ジト目でそれを見ていた彼は、カップに口をつけたまま動かなくなる

「閲覧禁止の蔵書の事なんだけど」

「許可証のサインはしないからな」

「もう、そうじゃないってば」

図書館の奥、ロープの向こう側にある閲覧禁止の棚
それを見るには、教師のサインを貰った許可証がないと見ることは出来ない

「あそこの蔵書って目を通したことある?」

「大体の物は、教師になってから」

「そうよね、学生の間にあの棚の本を論破するなんて難しいもの」

卿が長年通った、ホグワーツの図書館

何万冊もある本の中から闇の魔術に関する物だけを選んだとしても
それを卒業までに読破する事は、それこそ本の虫にならねばならない

勿論、その中でも禁忌とされる記述を探すだけでも手間だ

「閲覧禁止の棚だって、何百、何千の本が有るか分からないのにね」

「あの棚がどうかしたのか」

「……ううん、ちょっとした世間話」

学び舎として過ごしたこの学校で、何を感じて何を思ったのか
―――私はそれを知りたい、ちょっとした知的探究心

「おいしいなぁ、セブルスの淹れたお茶は」

「茶葉は自分で持ってきた物だろう、我輩はそれに湯を足しただけだ」

「つれない返事をありがと」

もう、あのクリスマスから、何度目の冬を迎えたのだろうか

紅茶に映る自分は、あの日と変わらない目をしていた

今は少しだけ幼く、見た目はあの頃とは違うけれど
確かに私は、何も変わってはいなかった

「何を考えている」

「なーんにも」

「どうせくだらん事だろうが、忠告はしておく」


セブルスは私の顔を見たまま、それ以上は何も言わなかった

言葉の無い忠告
何に対するものなのかは、お互いが良く分かっている

「そろそろ戻る、お茶ご馳走さま」

「それがいい、我輩も今日は夜の巡回がある」



* * *



その日の深夜

ハリーはベッドを抜け出して図書館へ向かい
その最奥、閲覧禁止の棚を覗く為に、透明マントを使うのだった

彼の父親のように

そして、ひとつの鏡と出会う

彼の望みをうつす鏡と




− − − − −

幸せな一日の中でも

何度も貴方を思い出す


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