dream | ナノ


* * *


ふかふかの枕、消毒液の香り、日の光が反射するぴかぴかの窓
生成色のスクリーンに、こちらを覗き込む顔
それからBGMに、怒声がいくつか

「目覚めましたか?」

マダムポンフリーが私の顔を見るなり、瞼と額を確認する
顔に触られ少し動いた瞬間に、後頭部の方に痛みが走った

「いっ……!」

「頭がぱっくり切れていたんですから痛いですよ!傷は塞ぎましたが安静に!」

「へ?頭?」

「今から気付薬を持ってきますからね」

ポッターに引っ張られたところまでは覚えているが
そこからどうしてこうなっているのか、まったくわからない

生成色のスクリーンの向こうから聞こえてくるのは聞き覚えのある声

おそらくマクゴナガル先生と、リリーだ

「えー……っと」

なかなかカオスな状況に唖然としていると、
スクリーンを除けて、リリーとセブルスがこちらへやってきた

「ああ!よかった!」

瞳に涙を溜めたリリーが私の手を取って安堵している
同じくセブルスも、胸を撫で下ろしたのか深く息を吐く

「あなたポッターに引っ張られて、転んで、それで……」

「石で頭を切ってたから、ここに運んだんだ」

状況説明をしようと慌てるリリーの代わりに、セブルスが続きを話す

「出血は多かったですが、スネイプとエバンズの処置が的確だったので大事には至っていませんよ」

薬を持って戻ってきたマダムがそう付け足して、薬の入った薬品くさいゴブレットを手渡した

「さぁ、それを飲んで。夕方まではここで安静にしていて頂戴」

「い、いただきます」

美味しそうには感じられない香りをぐっと我慢して、中身を一気に飲み干す
さらっとしていて飲みやすい反面、きついハーブの香りが口内を占拠した

強烈な歯磨き粉をチューブ全部口に入れたより、もっともっと凄い匂いだ

「気分はどうです?」

「さっきよりはマシに……なったと思います」

そしてBGMは先ほどより更に大きくなっていっていた

「女性に怪我を負わせるとは何事ですか!嘆かわしい……!」

身体をずらしてスクリーンの端から奥を見ると、
頬を真っ赤に腫らしたブラックとポッターが正座させられ、マクゴナガル先生に説教されていた

キレイに手のひらの形の付いた赤い頬は、手形のサイズからしてリリーだろう

「気が付きましたか……ああ、良かった」

マクゴナガル先生と目が合ったかかと思うと、首はすぐさまポッターとブラックの方を見て、二人を立ち上がらせた
相当絞られたのか、彼らにいつもの覇気はなく、元気なんて言葉は見当たらなかった

「さあ、彼女に何か言うことはありませんか?」

マクゴナガル先生が促すと、二人はおずおずと歩み寄り

「ご、ごめん!まさかこんなことになるなんて」

「……やり過ぎたよ、悪かった」

ポッターとブラックが、頭を下げて申し訳なさそうにする
普段の悪戯と違い、怪我をさせたのが響いたのか、活きの良さも感じない

「今回、学校内でこのような騒ぎを起こしたのですから……グリフィンドール、50点の減点ですよ」

ポッターとブラック、リリーがぎょっと目を見開いた

「あ、いいです、先生」

「なにがいいのですか、現にあなたは怪我をして」

「別にポッターだって怪我させてやろうって思ってた訳じゃないですし、ブラックだって」

「ですが」

「私の不注意でもあるんですから、痛み分けってことで……だめですか?」

「全く、次はありませんよ」

マクゴナガル先生は、小さく息を吐いた
仕方なさそうに微笑み、踵をかえして医務室を後にした

「本当、ごめん」

「いいよ、私だってブラックの腕……あ、まだ痛い?」

大人がいなくなって、再度ポッターが謝罪する
ブラックに思いっきり関節決めたのを忘れていたので、そちらに視線をやる


「……シリウス、でいい」

「え?」

「あ、僕も!ポッターじゃなく、ジェームズって呼んで!」


てっきり、また余計な確執が出来たかと思っていたんだけど
どうやらそれは、杞憂に終わったようだった


「私、スリザリンだけど、いいの?それって」

「んー……君はいい奴だし、良かったら友達になってくれない?」


それってアリなの?いいの?という思いが頭を駆け巡ったが、
見たこと無い笑顔でこちらに笑いかける彼を見ると、なんだかこちらまで表情が緩みそうな気がした


「追い掛け回して悪かった」

「あ、いや、私こそ。無視してごめんね。ジェームズ、シリウス」


「ほらあなた達、次の授業が始まりますよ!お行きなさい!」


マダムが声を張り、手を叩いて私以外の生徒を急かす

ジェームズは手をぶんぶんと振って、シリウスと走り去っていった

セブルスとリリーも、そろそろ退散……というところで
彼女は私に近づいて、小さな声で耳打ちした

「セブルス、ちょっと見直したわ。血まみれのあなたを担いで、すごい速さで運んだのよ」

リリーはまたねと言って、にっこりと微笑み
背を向け
小走りでドアまで駆けていってしまった

ぱっ、とセブルスを見る

元々制服の色は濃い灰色やら黒だったりで目立ちにくいが
確かにあちこちに、痕がついていた

「制服、ごめん」

「別にこれくらい、落ちるだろうし。構わない」

思い出したかのように自分の制服を見て、セブルスはそう言った
先ほどのマダムの声を再度聞かなくてもいいよう、彼もいそいそとその場を後にしようとする

「セブルス」

「なんだ」

「ありがとう」


「友達、だからな」


ぼそりと何時も以上に小さな声でそう言った彼は
そのまま振り返らずに、静かに医務室を出て、授業へ向かった


友達って……言ってくれた

それだけで、後頭部の違和感が消えていくような気がした

強張っていた表情筋がゆるゆるになるくらい、うれしい


お日様の匂いと、薬品の香りの混ざった不思議な香りの中で

私は自然と零れるその感情を抑えたくて、ふわふわの布団に顔ごと埋めたのだった



早起きの分だけ、いいことはあった



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近づく距離

やさしい気持ち


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