入道雲の道行きは
遠くに聞こえる喧騒、澄みきったとは言えない空気。
それを無視した純白の雲。夏にしか生きることが出来ない虫達の鳴き声。
空はただ、蒼い。
腰に回された細い腕が、背中に感じるかすかなぬくもりが、幻に思えてしかたがなかった。
「健二くん、大丈夫?」
がたん、と軽い振動。
きっとなにかを踏んだのだろう。
車体は揺れて、彼女の腕の力がすこし強くなる。
「重かったり、しない?」
「だ、大丈夫です。全然いけますよ」
本当は全然大丈夫ではない。
主に心臓が。
自転車の二人乗りは初めてじゃないけれど、後ろに乗っているのが女の子で、かつ憧れの先輩なのだ。
以前なら──夏休み前だったなら、ありえなかった状況。
たくさん傷ついた。
たくさん泣いた
たくさん戦った。
そしてその先に──絆を見つけた。
あの夏の戦争。
あれがなければ、どうなっていただろうか。
行ったのが佐久間で、自分ではなくて、彼女の強さを知ることが出来なかったなら。
あの家族ひとりひとりに会うたび弾けた笑顔も、指を絡めて溢れ出した弱さも、世界を細い肩1つに背負い、それでも凛と前を向く横顔も。
それらから解放されて、間近でみた透明で綺麗な雫も。
あぁ、なにもかも、鮮明だ。
知らないなんてありえない。
あの戦争は、誰が欠けても勝てはしなかったのだから。
あの部室で、彼女と出会えることも
きっと、決まってた。
「健二くん、そこ右に曲がって」
「え、でも遠回りになっちゃいますよ」
「それで──いいの」