心臓を掴ませて最後の祈り
見下ろす黄色い頭。そいつは女の子のように甘い匂いをしていなかった。代わりに、檸檬みたいな酸っぱい匂いがした。それを言うとこいつは怒るだろう。好物はバナナらしいから。そんなねちねちしたのの何がいいのと前に聞いたら、思いっきり叩かれたのをよく覚えている。全く、人の気も知らないで。
普段からかっている言葉に、獣のような熱が籠っていたのを知っているか。か細い火のようだったそれが、いつの間にか燃え広がっていたのを知っているか。こっちはいつその小さい手を汚れさせてしまうかと、ひやひやしていたというのに。
「っ……オ、マエ、頭おかしいんじゃ、ねぇの」
「今のレンの方がよっぽどイカれてる」
首筋から耳までを一気に舐め上げれば、少女のような悲鳴が上がった。男のくせに、声変わりはどうした。そう呟いて親指を唇に這わせれば、間近にある鎖骨がさぁっと赤く染まった。知っている。自分達に、成長は与えられていないのだということは。それは呪いでもあり、普遍の常識でもあった。
ただ、こいつにそんなこちらの心境は当然ながら伝わっていないようで、不思議な色をした目が反論を探すようにさ迷っていた。その視線が定まり、声を出そうとした瞬間を見計らって、唇に置いた親指を口内に突っ込む。
「か……っは」
生暖かいざらざらとしたものに指が沈み込んだ。その舌を押し戻すように指を深く進めれば、少年らしい顔つきが歪み、目の端には涙が浮かんでいく。そこと額に口付ければ、少し骨張った腕が首に巻き付いてきた。
――頭の悪い磁石のようだと思った。同じ極同士で繋がれる筈がないのに、そんなことも分からず、世界の摂理によって離れていくものを追いかけ続ける。その姿の、なんと哀れで愛しいことか。壊れた世界があればいいと思った。離れた磁石同士がいつか巡り会ってしまうような、そんな禁断の世界が。
「……手首、いてぇ」
指からも唇からも解放された赤く熟れる唇が、掠れそうな小声で呟いた。ふと気がつけば、首にあったはずの細い手を力いっぱい組み敷いていた。どうやら夢中で唇を貪っている内に、腕が本能的に動いていたらしい。
あぁ、そう。特に謝罪もなく手首を放す代わりに指を絡めれば、呆れたようにため息をつかれた。その動作や吐息すら惜しく感じて、なんとなく、自分自身が壊れていると仮定してみる。
そうすると、この部屋の中で自分の存在が嫌に明確にされた気がした。
*流星Pのmagnetを参考に。