心を揺さぶる歌なんていらない




 彼女は、本当に可愛い。他人は彼女の外見ばかり見てそう言うけれど、俺は違う。確かに彼女は美少女で、肌も白くて、まるで平面のファンタジーから抜け出してきたような姿をしている。なんせ二次元に片足どころか全身突っ込んで埋もれている、あの男前が揺らぐほどだ。
 でも注目すべきところはそこじゃない。彼女の魅力はなんといっても、あの中身にある。





「……こんなこと言うと、君は引いちゃうかもしれないけど」

 ソファの背もたれと俺の身体に寄りかかるようにして、彼女はそう呟く。温かみを感じる箇所が繋いだ手だけでないことに、少しの幸せを感じた。頭の位置が近いからか、さっきからずっと良い匂いがする。それは女の子故なのか、彼女故なのか。経験の少ないオタクでは判断出来ない。

「君にはもう血が定着してるよね。私の血を二度も飲んじゃった。きっともう――人間には戻れない。……私は、不謹慎かもしれないけど嬉しいよ。でもね」

 きゅう、と服を掴む気配がした。同時に、腕に顔を埋められたような感触も。こういうことは貴重だ。彼女は普段恥ずかしがって、甘えてこようとしないから。やばい、めちゃくちゃ萌える。

「……君の中に流れる私の血が、ちょっとずつ薄れていくのかなって思うと、なんかね、少し残念だなぁって」
「うん」
「思ったり、するんだけど」
「うん」
「……引かない?」
「まさか」

 むしろすごい可愛い。そう言えば、ぽすっと腕を軽く叩かれた。真っ赤になっているであろう顔は必死に隠されて見えない。それに吹き出しそうになったところで、いいことを思いついた。

「……じゃあ、毎朝瑠衣が血を飲ませてくれればいい。初めて会った時みたいに」

 彼女がゆっくりと緩慢に顔を上げる。その澄みきった瞳と視線が合った瞬間、ものすごい勢いで彼女が身体を離した。

「なっ……や、ちが、あの」

 ソファの端っこで肘掛けにしがみつきながら、彼女は潤んだ目で何かを言おうとしているようだった。少しかわいそうだが、冗談だとごまかす気はさらさらない。かわいそうとかいった気持ち云々の前に、彼女にどうしようもなく惚れてしまっているのだ。こんな貴重な機会をわざわざ無駄にする理由もなし。
 思いつきは予想以上に攻撃力が強かったらしい。しばらく経って彼女が落ち着くまで、思う存分その姿を堪能できた。

「ほんとに君は……二回目以降に会った時もそうだったけど、もう少し言葉を選んでほしい。君の言葉は、すごく心臓に悪いよ」

 それ、どういう意味で。
 乗り出して、聞いてみる。覗き込んだ表情の尋常でない可愛らしさのせいで、だいぶ限界が近づいた。やばいかもしれない。いろんな意味で。
 ふわりと漂ったのはやっぱり良い匂いで、なんだかもう、鼻血が出ている気がしてならなかった。



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