邂逅




 黒髪の間と暗闇の中で、琥珀は鮮烈な光を放っていた。綺麗。黒猫の目もこんなふうなのだろうか。よく見ようと髪に触れることは出来ない。右手は壁に縫い止められていたし、左手は自由だけれど、金縛りにあったようにぴくりとも動かなかった。
「――君さ」
 痺れるような声だった。間近で琥珀が瞬く。あぁそうか。この瞳のせいだったのか。身体が動かないのも声が出ないのも、目が離せないのも全部。
「おせっかいって言われたことない?」
 彼は目を細めて微笑んでいた。蔑むような視線。嘲るような声音。先までの彼とは似て非なる人物であるように思えて仕方がない。
 この暗い教室に連れ込まれるまでの彼は優しくて、面倒見がよくて、けれど目は何も映してはいなかった。笑顔はただの筋肉運動だった。
 だから言った。笑いたくて笑ってるの、と。
「初対面の人間に、よくあんなこと言えるよね」
 言った途端に刺すような視線を向けられて、一瞬の内に近くの教室へ押し込められた。壁に肩を押し付けられて、拒もうとした右手は掴まれる。睨み付けようと顔を上げた瞬間、琥珀が目に飛び込んできた。
 自分が映っていた。冷たく、温度のない水面だったけれど。そこから、そう。身体は動かなくなったのだ。
「……僕はね」
 見つけた、と思った。本物を。これが本物だ。核だ。きっとクラスの友人は誰も知らない。――突然に、惹かれた。惹かれてしまった。

「君が、大嫌いだよ」



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -