幸福だった物語




ティオにもらったの。

そう弾む声で話しながら小さな包み紙を剥ぐ少女を眺め、少年は知らず知らずの内に頬を緩めていた。
嬉々として黄色い棒付きキャンディを口に放り入れ、ころころと美味しそうに転がす。唇から出た短い棒がぴょこぴょこと揺れていた。

「んまーい!」

「そりゃ、あれだけ働けばね……」

疲れた時には甘いもの。
だから彼女の友人も飴をくれたのだろう。

少年はポケットの中に手を突っ込み、さっきもらったものを取り出す。
彼女と同じ棒付きキャンディ。
ただし、違う味。

「…………」

少し悩み、少年は少女にそれを差し出した。

「ふぉ?」

不思議そうに首を傾げた後、少女は舐めていた飴を出す。

「くれるの?」

「……あぁ」

「ヨシュアは?」

「僕は別に欲しくない」

「ふーん……ありがと」

これといった文句も疑問もなく受け取った少女は、手早く包み紙を剥がし、両方とも口に放り込む。
口先で踊る棒が2本に増えた。

「ふんふん…………ぬ?」

頬を丸く膨らませる少女から目を離した少年は、小さな疑問の声に反応して、また少女へ視線を移した。

「なんだろ?この味」

最初は少年があげた飴のことかと思ったのだが、どうやら違うようだった。
2つの飴が混ざり合った味のことを言っているらしい。

「食べたことある……なんだっけ……」

黄色と赤色の飴を口から出し、睨むように見つめていた少女は、おもむろに少年へと向き直った。

「ヨシュアもなめてみて」

「…………は?」

「はい」

ずずぃ、と突き出された2つの飴をぽかんと見ていた少年は、その意味を理解した瞬間ぶんぶんと頭を振った。

「嫌だ!」

「なんでよー、ヨシュアなら分かるかもしれないじゃない」

「そういうことを言ってるんじゃない!」

ならどういうことだ、と眉を寄せる少女から目を逸らし、少年は少女を納得させるために頭をフル回転させ始めた。


三分後。

その努力虚しく、結局は痺れを切らした少女に飴を無理やり突っ込まれた少年であった。


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