Unnecessary addition




 朝日が瞼を透かしている。目を開けようとすると、目元がひりひりと痛んだ。昨日は子供みたいに泣いてしまったから。それでも引き剥がすように瞼を上げると、肌色以外の色が一気に雪崩れ込んできた。黒系統の色で統一された、綺麗だけど生活感のない部屋。知らないベッドの上。

「おはよう。気分はどう?」
「……ワジ君、あたし、昨日は」
「泣き疲れて寝ちゃったんだね。でも僕にしがみついて離れてくれないから仕方なく一緒のベッドに」
「え、嘘っ!」
「うん嘘なんだけど」

 起き上がった拍子に撥ね飛ばした毛布の下を確認する。乱れは全くなかった。いや当たり前だけれど。吐き出したため息には二重の意味があった。ひとつは彼の冗談に向けて。もうひとつは――世界の異常が、現実だったことに対して。
 夢であればいいと、昨日もそう願いながら目覚めた。けれど目を開けて見るのは見慣れた雑居ビルの天井ではないのだ。また目が潤んでくる。こんなに泣き虫だっただろうか。
 ふと我に返る。柔らかいタオルを手の甲に押し付けられたからだった。

「顔を洗ってくるといい。ついでに、ちゃんと目を覚ましてきてね」







 水は鳥肌が立つくらい冷たかった。骨まで神経が凍らされてしまう前に、急いで顔を洗う。目には心地よかったけれど、触れた瞬間は冷たさに息を飲み込んでしまった。

「目を覚ましてこい、か。……駄目だな、あたし」

 見抜かれていたのかもしれない。塞ぎ込もうとしていた情けなさや、甘えを。言い訳ではないけれど、安心して座り込んだ後に立ち上がるのは、歩き続けるよりも疲れるのだ。――けれど。
 両手で頬を叩く。ぱん、と小気味良い音と、痺れるような頬のじりじりとした痛み。目は覚めたかと瞑目したまま自問する。視界はずっとクリアなはずだ。目を開けた鏡の向こうの自分は、真っ直ぐにこちらを見返してくる。
 昨日とは違う、今日。





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