やわらかな草におおわれた地面に座っていた。よく日のあたるここは見わたすかぎり緑が続いていて、その上にきいろい点のような花がちりばめられている。遠くのほうに、鉢屋さんの背中が見えた。雷蔵さんとふたり、何やらたのしそうにお話をしている。きいろい花をしげしげと見つめる兵助さんに、子犬とたわむれるはちさんもいる。みんな、みんなみんないる。胸のなかがふわりとあたたかくなってかけだそうとしたとき、頭の上からふりそそぐ、こまかな花びらに気づいた。お日さまの光だとおもっていたものは、ちいさなちいさな花びらの数々だったのだ。顔をあげると、仙蔵兄さんが おだやかにわらいながらわたしに花を散らしていた。

毎日まいにち会いたくて、ひと目でいいからお顔が見たくて、ほんとうなら ずっといっしょにいてほしくて。今までずっと見ないようにつとめていた気もち、ないものにしていた気もちのすべてがするすると、あっけないほどかろやかにあふれ出る。ぎゅうと抱きしめたその身体は、あたたかくもなく つめたくもなかった。それでも何かをたしかめるみたいに、わたしは仙蔵兄さんの身体をきつく抱きしめつづける。

仙蔵兄さんはなにも言わなかった。輪郭をなぞるように名前を呼んでも、ただしずかにわらっていた。手を離さないといけない。あきらめでもなく、悲しみでもない色をした水が 身体の中をゆっくりと満たしてゆく。耳をすますと いつかの潮騒の音がこだましているような気がした。

身体が離れ、指先がほどけて ようやく仙蔵兄さんの顔をまっすぐに見すえる。おとなになったらお嫁においでと約束してくれたくちびるが、やさしく弧をえがいていた。もう、ここにいることはできない。待っていることもできない。わたしが一度は落としてしまったもの、探しつづけていたけれど ほんとうはずっと手のなかにあったものを、届けに行かないと。

澄んだ風のふきぬける草原を背にして、わたしは走りだした。たのしいおしゃべりをして寡黙になってしまった、たくさんのものをひろって、おんなのこと指をからませあって孤独に冷えてしまった胸のうちに、いまのあたたかい手のひらでふれたくて。




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