ひととしての根っこの部分がどうしても後ろむきなわたしは、こうしてまよなか 泣きはらした目で、かさかさになった声で、いままで起きたこととこれから起こるであろうことのささくれをひとつひとつ数え、どうしようもない気もちになって床に寝ころがる、そんなことがしばしばある。考えるのはいまさらどうしようもできないことや、いまから悩んでもしかたのないようなことばかりで そんなことたちに拘泥している自分もゆるせなくなって、ぐるぐるはつづいてゆく。悪循環に終止符をうつ元気すらないほどなやみ疲れて、みっともなく鼻をすんすんとさせながら 携帯を手にとった。いつでもいちばん上にある番号をそっと押してから、壁の時計がおそろしく夜中をさしていることに気づき あわてて電話を切った。呼び出し音、鳴る前だったけれど どうか庄ちゃんが目をさましていませんように。無理かもしれないけど、着信履歴に残っていませんように。できることなら、迷惑だなっておもわれませんように。

ふらふらと立ちあがり、奈落の底を歩くような手さぐりでコートを着た。いちばんかかとの低い靴を履くまではできたのに、そこで玄関にへなへなとすわりこんでしまった。弱っている。とても弱ってるの、わかっている。でもこういうときすくってくれるのは、すこし遠くの おきにいりの公園で、ぶらんこを漕ぐこと。だから いまが深夜二時半であろうと、外がおそらく氷点下の気温であろうと、わたしは行くのだ。


顔や指さきがこごえてゆくのを感じながら、風の吹きすさぶ夜中、自転車をはしらせる。正気の沙汰じゃないこと、うすうすわかっているけれど、もう 気にしないことにした。二十分かけて公園に着くころ、無心で自転車をこいだおかげか、ほんのすこしだけ気もちはかるくなっていた。

ざりざりと砂を踏み、ぶらんこへ歩く。ひたすら下を向いていたわたしは、先客がいたことにまったく気づかなかった。視界の端で なにかがきらっと光ったような気がして、顔をあげたとき そこにあったのは庄ちゃんの瞳だった。健やかで聡明な、庄ちゃんの瞳。

どうして?と、切りつけられるような冷えと、それからやっぱりどうして?に、背すじがぶるぶるとふるえはじめる。この庄ちゃん、ほんものだよね。だって、いるもの。ここにいるもの。こんなことってあっていいのかな。背すじをふるわすばかりで あとはかたまっていたわたしに、ほんものかにせものか定かでない庄ちゃんは 深い青の、やわらかなマフラーを巻いた。そこではじめて、首がとても寒かったことに気づいた。さっきまでは、コートを着ることでせいいっぱいだったのだ。


「手袋は、一組しかなかったんだ。だから、手は こう」


つめたくなったわたしの手をとって、庄ちゃんはおだやかな笑みをうかべた。王子さまか、このひと。とっても賢いのに、わたしのばかみたいな行動に なにも言わずそばにいてくれるなんて。こんなむしのよすぎる話、いつかきっとばちが当たるよ。
さみしく佇んでいた街灯の明かりすら、やわらかい色彩を帯びて見える。庄ちゃんの膝のうえにすわって、ばち当たりなわたしは ぶらんこを漕ぎはじめた。

悩んでなやんで熱くなってしまった頭と、冷えてしまった身体が、ゆっくりもとにもどっていく気がする。沈んだ気もちはどうしようもなく これは回復を待つしかないのだけれど、かがやく満月は夜空をうすみどりに照らしていて、ひろがった雲はなんだか世界地図のようだった。うしろの庄ちゃんも、きっと見ていたとおもう。あたたかなマフラーは落ちつく匂いがして、ようやく、深く眠れそうな気がした。


140116


「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -