わたし七松先輩ってだいすき!って八くんに言ったら、八くんがそれを勘ちゃんに言い、勘ちゃんが三郎くんに言い、三郎くんが雷蔵くんに言い、雷蔵くんが兵助くんに言い、兵助くんが七松先輩に言ってしまったらしい。


「というわけで本当か確かめにきたぞ!」
「本当ですよ」


七松先輩の笑顔がぱああっとかがやいた。


七松先輩は委員会の先輩だ。大きくてやさしくて、それからかっこいい。委員会はランニングもバレーボールもきついけれど、七松先輩がやるならわたしもやる。つらいけどしあわせです、でも被虐趣味ではないよ。


先輩はきらきらとしたおおきな目でわたしを見つめながら、元気に口をひらいた。


「じゃあ今から私たちは夫婦だな!」
「はい!」
「こら小平太、そういう類の話は人前でするものではないだろう」


いつの間にか現れていた立花先輩が、七松先輩の頭を教科書でばしっとはたいた。痛そう。そう、何を隠そうここはお昼休みの食堂。ごはんを食べているわたしのところへ、先輩は駆けこんできて大声で話をはじめたのでした。


「夫婦とはまた気が早いことだ」
「あ、それならいいんです。わたし七松先輩と恋仲じゃなくて、夫婦になりたいんです」


立花先輩はきれいな眉を寄せて、腐りかけのみかんを見るような目つきでわたしを凝視した。七松先輩はにこにこしたまま頭の上にいっぱい疑問符をうかべている。斜め前の机でごはんを食べていた金吾がこちらに気づいて会釈してきて、わたしは手を振りかえした。


「七松先輩はよくわかってらっしゃいます」
「私はなにも考えてないぞ!」
「そうなんですか」
「…でもみょうじは、わたしと恋仲になるのは嫌なのか?」


うーん、そうかもしれないです。だって、七松先輩とこっそりふたりで会ったり、お休みの日に町に出かけたり、そういうのって(したことないけど)ちょっとちがう。なんだかこそばゆいよ。七松先輩がすきでも、べつにそんな きらきらふわふわしたことがしたいわけじゃなくて、こう、元気な先輩を遠くもなく近くもない位置で見てたい っていうか!先輩の夜着とかお洗濯しながら!


一生けんめいに説明すればするほど、立花先輩が 腐ったみかん早く誰か捨ててくれ みたいな視線になってゆく。わ、これはどうにか弁解しなくては…!生ごみになっちゃう!


「わたし、七松先輩だいすきですけれど、これは恋じゃないかもしれません!」


立花先輩がほんのすこし力の抜けた表情になっていた。七松先輩はじっとこちらを見つめている。いけないこと言ったのかな、わたし。


「つまりは頼りになる上級生、としか見ていないということか?」
「……うーん、」


ちょっとちがくて、もっと大きな意味で、それはその、

そのとき、わたしと立花先輩のやりとりを見守っていた七松先輩が、にかっと笑って口をひらいた。


「私はみょうじのこと、愛より恋よりすきだぞ!」


そうそうそれそれ!





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