答案が返される日を待つだけの期間は、意外と長かったりする。授業がなくなったのをいいことに、えっちゃんととなり駅のショッピングモールに遊びにきた。とくにお買い物をするでもなく、ただふらふらと歩きながらいつものようにおしゃべりをしているだけだけれど、えっちゃんとふたりなら わけもなくうきうきする。もともと背が高くておとなっぽい彼女は私服だとさらにおとなびて見えて、やっぱりきれいな子だな と何度目かわからない再確認。
お茶をしていた喫茶店でまた話しこんでしまって、そろそろ暗くなるよね、とお店を出たところで よく知る顔にばったりと出くわした。
「富松くん、浦風くん!」
驚いた声をあげたえっちゃん、わたしはすぐに気まずさでいっぱいになって下を向いた。富松くんがそれに答えて 二三言葉を交わしてるのが聴こえる。ついてないな、どうしてよりによってこのふたりだったんだろう。数馬と藤内だったらよかったのに。それか、富松くんと他の誰か。男の子のつきあいなんて、全然わからない。
おそるおそる視線を上げたら、富松くんの後ろに立っていた藤内と目が合った。どうしてこっちを見ているの。悲しいような、やりきれないような気もちの波が足もとを駆けあがって、わたしはえっちゃんの緑のスカートを 気づかれないようにそっとつかんだ。
せっかくだし帰るまでみんなでいよう、と、朗らかに笑ったえっちゃんの提案を無碍にすることなんてできるはずもなく、わたしはうまく笑えているのかわからないまま曖昧にうなずいた。
前を歩く富松くんとえっちゃんは何やらたのしそうに話をしていて、その数歩うしろでわたしと藤内はすこし距離をおいて黙りこんでいた。話したくないのではなくて、なにを話したらいいのか見当もつかない。十年以上も知っているはずの藤内なのに、いま隣を歩いているのは見知らぬ誰かのような気がした。
いやだ。
おなかの奥から、そんな声が聴こえる。
富松くんはともかく、えっちゃんのことはだいすきだし、藤内もこのごろよくわからないけれど 嫌いになんかなれるはずもない。だけど、いまこういう中で藤内といっしょにいるのはとても嫌だった。いけないことをしている気がした。ここに数馬がいて、えっちゃんと富松くんがいなかったなら、
じわり、視界をゆがませた涙は 嫌悪が形になったものなのかもしれない。くちびるをかみしめて手にもぎゅっと力を入れるのに、熱い膜が目をむしばんでゆく。冷房の風にふるえた素足が、自分のものなのにいやに白い。
「作兵衛、悪い」
隣の藤内が動いた気配がしたのと、手首をつかまれたのはほぼ同時だった。
「なまえが具合わるそうだから先に連れて帰る。ごめん」
何を言ってるんだろう。どうして、とたずねることもできずに、くるりと方向転換をした藤内に引かれたままの手首。
「あっ、おい!藤内!」
具合なんてすこしもわるくないわたしは、誰の顔もまっすぐ見られなかった。困惑する富松くんも、びっくりしてるであろうえっちゃんも、すぐ前にいる藤内でさえ。いやだいやだは、まだ鳴りやまない。
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