今日も早朝、支度を済ませて隣の家の幼馴染を起こすべく自分の部屋の窓をあけ彼の部屋に飛び移った。 初めて夜久衛輔と会ったのは自立した意識を持たないくらい小さい頃。 家にある写真はだいたいが2人で写っていて私はいつも”やっくん、やっくん”と背中にひっついているものばかり。 それでも小さい頃の彼は困った顔一つ見せず笑顔を向けてくれていた。 記憶は曖昧なものでそんな気がするだけ。 今は彼がどんな顔してたって気にならないくらいにその存在は大きい。 『やっくんやっくん、起きて朝だよ。私もう支度できてるよ』 「…ん」 『寝起き悪いの治らないなあ、寝る前にした寝起き効果抜群の対策もこれで42個撃破だよ』 「あと、5分」 『えー、じゃあアラームかけて私も添い寝〜!』 ガバッと布団を広げてやっくんの腕の中に潜り込んで片腕だけ背中に回す。 ぎゅうっとくっつくと小さい頃とは大違いの厚くなった胸板があって成長と変わらない距離の心地よさに酔った。 ―… 「―ん、って…今日もか」 『(すぴー…)』 「まじで何でこんな平然と寝てられんのこいつ腹立つな。」 自分の背中に手を回す隣の家の幼馴染。 小さい頃からあいも変わらずひっついて離れない存在。 「俺も男なんだけどな」 口に出して鉄朗が俺をどう思っているのだとか、考え始めてしまえば世紀末。 答えなんか聞けばいいのに、朝この体温がなくなるとしたらどんなに寒い朝なのだろう。 不安な気持ちばかり募って男らしさのない自分に嫌気がさしてしまう。 『…やっくん、』 ハッとして鉄朗を見ると寝言を唱えふふっと頬を緩ませる彼女。 毎日同じように繰り返されるこの状況が歯がゆい。 俺は無意識に鉄朗の頬に手を添えて言葉を紡ぐやわらかい唇を塞いでいた。 「鉄朗、好き、だ」 唇が離れてそうつぶやくも恥ずかしさがこみ上げて顔が熱くなる。 寝ている彼女に何度告白したのだろう。 疑問に思いながら数えられる程ではないと思いふぅ、とため息が漏れた。 『ふふっ』 「あ?」 『おはよう、今日で100回目の好きだ、だね』 「は?!!起きてたの、か?」 唖然とする俺の目を見つめるふにゃけた笑顔と覚醒しきってない目が交差する。 心臓がうるさい。 不安なのか、興奮してるのか、期待しているのか… 『やっくんの私が好きで好きで仕方ないって声、起きないはずがない』 そう言った鉄朗が背中に回していた手を解いて俺の両頬を包む。 ちうっとリップ音がして離れていく。 「(今キ、スされた…よな?)」 『やっくんは私の唯一の男の子だよ。大好き!』 ニィっと笑う顔にしてやられた。 声が固まってうまく喉から出てこない。 『やっくん固まっちゃった。』 そんな小首をかしげる鉄朗が可愛くて精一杯優しく、強く抱きしめた。 そしたらほら、また嬉しそうに声を出すもんだから嬉しくて目が覚めていた。 「(てか俺好きとは言われてないような?)」 『(やっくんは知らないけど私も寝てるあいだに100回ちゃんと返してるからね)』 |