※トリップ/あまり痛くない次男/何でも許せる人向け



いつも通りの朝、いつも通りの恰好。
この扉を開ければ胸糞悪い上司と向かい合って仕事をするために会社へ向かわねばならない。
まあ今日は平日最後である金曜日。今日が終われば2日は顔を合わせないのだ。
幾分いつもより気は楽なつもりだ。

8:10 重い腰を上げ鞄を持って扉に手をかけた。

がちゃ


扉を開けるとそこには人がいた。

おかっぱ頭をセットしている男性が目の前にいた。

思いかけず2回似たようなこと言っちゃったけどどうか察して。え、ほんとなに?!


「キ、キ、キ、キ、キ君!!いったいどこから?!」
「いやいやいやいや寧ろアナタこそなんで人の家の前で…?!」

たっぷり3秒お互い見つめ合ったのち口を開いたが私は気づいてしまった。
家を出たはずなのに目の前に広がる景色は…洗面所。
目の前の男性の家の洗面所に私は立っていたのだ。

後ろを振り向く。浴室だと思われる扉。
右左ともに壁。目の前…

「え、え、えぇぇぇっぇえ?!?!ここどこ?!??!」
「お、落ち着いてくれ!!」
「!!!!」

ガシィという音をこんなに正しく聞いたのは初めてだと他人事のように感じながら目の前の男性が私の肩をつかんだ。…あ、痛くなってきた…。

「い、いたい…。」
「!!!!これは済まない!!と、とりあえず俺のブラザーたちを紹介しよう!俺はカラ松だ。君は?」
「なまえです…。」
「いい名前だな!さぁ、こっちだなまえ!」

お風呂場から案内されるって変な感じだな…。と思いながらさすがに靴は申し訳ないので仕事用のカバンに突っ込んでカラ松の後を追う。というか最初の紹介が兄弟たちって…?え、ってかよくよく考えてみればなんで英語交じりの話し方なの???痛くない???

スサー
音とともに襖を開けた目の前の男性に続いて部屋へ入ると

「やっとかよお、カラ松お前うっせぇ…え、どちら様?!?!?!?!?!?」

寝っ転がりながら新聞を読んでた人が顔を上げて私を見た。
この人の声も負けず劣らずうるさいと思うわ…つかカラ松と顔似てるね…?双子かな?そんなことを思いつつ自己紹介をしようとしたら

「うっせぇよ!!くそ長な…誰?!」

別の襖が開き目の前の男性2人と似たような顔の男性が現れた。
君も負けず劣らずうるさいよ。三つ子かな?そろそろ自己紹介させてくれ…
そんな気持ちを知る由もない目の前の人たちの大声につられてかこのthe居間という感じの部屋に人が集まってきた。
気づけば似た顔6人に囲まれる私の図が完成したのだった…。
もはやパーカーの色でしか判別できないのだけれどもカラ松のパーカーを覚えてないので誰が誰かわからない状態である。
そんな私をよそに何やら話を終えた青と緑の男性が私に今までの流れを話すよう促したのだった。



「つまりなまえさんは家の扉を開けたらなぜかうちの浴室の扉につながっててたまたま意味のない髪の毛のセットをしていたカラ松と遭遇してここに案内された、と。」
「はい…。」
「で、僕のスマホで調べた限りなまえちゃんの家の住所はこの世に存在しない。」
「これが無重力スパイラァアアアル!」
「違うからね十四松。変なこと言うと双方に混乱を招いてしまうから少し黙ってるか、一松ちょっと野球の相手してあげて。」
「やきう?!?!いく!!」
「行くよ、十四松。」
「あいあーい!」


内容がないと自分でも思うほどに内容がない経緯でびっくりしてる…本当に申し訳ない…出ていった二人は話をしている聞興味すら抱いてるようには見えなかったので部屋を出ていくのは当たり前かと思う。なんせそれほど内容がないのだ。決してギャグではない。

「うーん…とりあえずなまえさんのことは僕たちだけじゃどうしようもないし、やっぱりここは警察に…。」
「ここに住んじゃえば?」
「はぁ?!」
「ナイスだ、おそ松!確かにそれがいい。このカラ松girlには俺がついて守ってあげなければ、と考えていたのだ。」

守られるとはこれいかに。聞いた感じ全然危なさそうな感じはしないのだが…。
カラ松には目に見えない何かが見えているのだろうか。勘弁願いたい。

「カラ松のことは置いといて、このまま警察なんか行った所で頭イカれてるやつにしか見えないだろうし、まぁなまえちゃんがその方がいいならカラ松に案内させっけど。チョロ松ぅ、罪悪感持たない?こんなかわいい子他所にやっちゃうの。言っても俺らニートの六つ子よぉ?6人も7人も変わらんくね???」

「で、でも…」
「それに野郎6人の中に1人女の子がいるってやばくない?寝食を共にするんだよ???サイコーじゃね???」

う、うわーーー。ニートって単語が飛び交ってる時点で嫌な予感してたけど良いこと言うなとか思ってた時間返してほしいくらいにこいつ屑だーーーー!!!!!

「はいクズ長男〜!サイテーそれが本音じゃん。」

と、同じことを思ったのか口に出したのがトド松君。
経緯説明ついでに名前とパーカーの色を紹介してもらった。パーカーさえ着てくれていればなんとか名前はわかりそうである。

「だめだ、おそ松!彼女はオレが先に見つけたんだぞ!」
「先とか後とか関係ありません〜!」

と、言い合うのが最初にあったカラ松とおそ松さん。

「はいはいやめて二人とも。彼女何も言えないでしょ。で?なまえさんはどうする?一応腐っても長男の言ってる事だからここに居候出来ると思うけど…。」
「しょ、正直不安要素しかないけど…背に腹は変えられないので、よろしくお願いします…。」
「やったね!よろしくなまえちゃん。ってことで!せっかくだし友好を深めるために今からお馬さんでも、あだっ!!!」
「彼女はここに来たばかりだし状況のせいもあって疲れてる、それに女性にたかるとは紳士失格だぞおそ松。すまないなまえ。せっかくだから俺たちの部屋に案内しよう。少し落ち着く時間が必要だろ?」
「え、あ、うん。」

今までなんだかんだで喋ってる合間合間に英単語入れてくるわ、自己紹介の時にサングラスかけるわであばら折れるやばい奴…とか思ってたのに案外、というか普通に気づかいできるのに驚いた…。お前できるやつだったんだなカラ松…。

こっちだ、と声がかかり不服そうなおそ松と宥めているチョロ松君とトド松君にサッと謝罪だけしてカラ松の後を追った。

「ここを使ってくれ。俺たちは下にいるから何かあったら呼んでくれ。」
「ありがとう。」
「ノープロブレムさぁ!」

とカラ松はそれだけ言うとさっさと下へと降りてしまった。
本当に気を遣ってくれたようだ。
確かにここにきていきなり初対面の人と会ったこともあって疲れたかもしれない。

窓際に座り外の風を浴びながら今までのことを振り返ってみる。

…ってこれよくよく考えて見れば俗にいうトリップってやつじゃね?!?!?!
夢落ちの可能性もある?!?!?!いってええええええ!!!!だめだ現実だ!
え?じゃあこれ本当にトリップじゃん…なんで、たしかに会社行くのはやだったけどそもそもああいうのって死ぬ間際とか瞬間的な何かの時に起こるもんじゃないの??家の扉開けたら別世界でしたーってどこの小説だよ!!!非現実だわ!!!そういえば会社は…?!

「まじかぁ。」

アドレスが全部消えてる。
電話はつながる、みたい。どこの回線と契約してんだよ、逆に使えないほうがありがたいわ!
このアドレス元の世界に帰ったら戻るの…?まぁでもこういうトリップあるあるとしてはトリップした先では何か月とか経ってたのに元の世界に戻ったら5分しか進んでないとかこっちで好きな人ができて離れ離れエンドとか定石よね。
あれその定理から行くと私もしかしてあの六つ子と恋愛するの???えーーーニートとか無理…。ほかにきっと方法あるよね…?

「おい、大丈夫か?!なまえ」
「ん…。」

気づいたら眠っていたらしい。カラ松が起こしに来てくれたようだ。

「飯だが起きれるか…?」
「ご、ごめん。大丈夫!」
「そうか、じゃあいくぞ。マミー達にも紹介したいからな。」
「う、うん。」

思ったより寝こけていたのとかなり至近距離のカラ松にびっくりした…。
男の人にこんなほっぺが引っ付くくらいの近距離で顔を覗かれるだなんて私の経験上にはないのでかなり驚いた…。心臓に悪すぎるぞカラ松…。

「マミー紹介したい人がいるんだが…。」
「あら、やっと彼女を連れてきたのね!」
「え。」
「いや、違うんだマ」
「挙式はいつなの?」
「気が早くないか?!」
「ツッコミどこはそこじゃないからね?カラ松。あの、おば様私は…。」
「おば様なんて他人行儀なのはやめてちょうだい!気軽にお義母さんとよんで。」
「いえ、ですから…。」
「今日はごちそうよ!いっぱい食べて頂戴ね!」
「かんぱーーい!」
『かんぱーい』

がちゃがちゃ、と私の話はいざ聞かず食事が始まってしまった…。
カラ松も呆然としていてどうやら何も考えられないらしい。え、私これからどうなるの?!?!


こうして私のトリップ生活が幕を開けたのだった。


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