ブリーチ/朽木響河



「夢を見た」

珍しく朝餉に口を開いたかと思えばそんなことを言う響河様に至極驚き、私はご飯を装っていた手を止めてしばらく見つめてしまった。視線に気づいた彼がごほんとひとつ咳払いをし、慌ててその茶碗を差し出した。

「ゆ、夢、ですか」
「あぁ。不思議な夢だった。お前とただ話してるだけの夢」
「…なんと、申せばよろしいか」
「無理に返事をしなくともよい」
「すみません…」
「夢は願望を映すと、そんな話を聞いたことがある」
「…はぁ、」
「何でもない」

ふん、とひと口食べた彼はそのまま口を開くことはなかった。しんとする部屋、鳥のさえずりがやけに響く朝餉の時間。護廷十三隊、六番隊の第三席として。それに朽木家の婿養子になる彼はそれは毎日忙しく、そして危険な仕事をしている。平穏と呼べる時間は静かにしたいと言っていた彼の気持ちを尊重してただ黙って仕えてきたけど、幼い頃から幼馴染としてずっと見てきたんだから、色々口出ししたいのは山々で。(とはいえ私のが5つ年下なのだけど)

「…響河様」
「今は響河でいい。なんだ?」
「あの、…なにか良い事でもありましたか?」
「…何故そんなことを」
「あなたの楽しそうな顔、久しぶりに見たと思いまして。差し出がましい真似をして申し訳ございません」

では、と頭を下げて部屋を出ようとすると、下手な演技の咳払いが聞こえて顔を上げる。そっぽを向いたままでこちらを全く見ようとしない響河様が、私の名前を呼んだ。

「…今日の夜、少し部屋に来て欲しい」
「えぇ。ご要件は?」
「特段何かある訳ではないが」
「…さようですか」
「…なんだ」
「え?」
「要件がないと俺と顔を合わせるのは嫌なのか」
「そんなこと一言も申しておりませんでしょうに。本当に不器用ですこと。奥方様も苦労なさってるんですね」
「なっ…!」
「では」

こちらに振り向いた彼の表情が予想以上のものだったのは誰にも秘密にしておこう。


2017/12/27
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