「ほら、なまえ」
「や、やだよ、れんじ…」


至極楽しそうに口許を緩ませて微笑んでいる彼が今だけ、少し、憎い。私の唇の形をなぞる指先は作り物のように綺麗だ。
今日、6月4日は彼の生まれた日である。私は誕生日プレゼントを渡すべく、朝一番に彼の教室へ向かった。すると彼は私の姿を見つけた途端、有無を言わさず私を屋上へと引きずり出したのである。


「はあっ…れん、じ」
「お前が俺の行動を理解できていない確率97%」
「…ねえ、どうしたの?」
「もう一つ、欲しいものがあるんだ…ああ、単刀直入に言おうか」


息があがりっぱなしの私とは裏腹に、息ひとつ上がっていない蓮二はクツクツと喉で笑う。こうやって蓮二が笑う時は、大抵よくないことを考えている時だ。


「お前から口づけをしてくれないか」
「えっ、や、やだよ!」
「何のために屋上に連れてきたと思っているんだ?…ほら、できるだろう?」
「だ、だって恥ずかしい…ッ」
「誕生日なのだから、このくらいの我儘は許されるだろう?」


ずるい、私が断れないのを知っていて、この人はそんなことを言うんだ。意を決して、ぐい、と蓮二のネクタイを自分の方へと引っ張り、唇を押し当てる。それはキスとは言い難い、ただ唇と唇がぶつかっただけのものだったが、私にはそれが精一杯のことだった。


「な、なんでこういう時だけ目開けてるの…!」
「…可愛いな、お前は」


目を細め、私の頭を撫でる蓮二に、おめでとうの意味を込めてもう一度キスをする。真っ赤になっているであろう顔を隠すため、蓮二の胸に顔をうずめた。


そっと重なる温度



柳さん誕生日おめでとう!今年も大好きです!
title by Largo



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