「…うそだあ」

思わずそんな声が無意識にぽろりと口から零れていた。鏡に映るのは、アホみたいに短く切り揃えられた前髪。もちろん私のものである。昨日の私は何を血迷ったのだろうか。深く問いただしてやりたいが、過去の私にそんなことをできるわけもなく。とにかく少しでもましにはできないかと、アイロンで伸ばしてみたり、ヘアピンをつけてみたりと試行錯誤を繰り返してみたが、眉毛にかからないほどの長さになってしまった前髪をどうすることもできなかった。


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お母さんに急かされてそそくさと家を出た。本当なら学校なんか行きたくないのに。この小心者め、と思いながらいつもの道を歩く。短くなってしまった前髪はもうしょうがないとして、せめてどうか、叶には会いませんように!と私は心のなかで強く願った。昔から私と叶は所謂幼馴染みという関係で、何かある事に叶は私にすぐちょっかいをかてくるのだった。だからなんとしても、こんな状態で叶に会うわけにはいかな…


「はよ、みょうじ」


名前を呼ばれた瞬間、大量の汗が全身から吹き出るような気がした。私は叶になるべく自分の顔が見えないように「おはよう」と言った。


♂♀♂♀♂♀


学校を目の前にしても隣を歩く叶は未だに畠くんの話をしていて、私の短く切り揃えられた前髪には気付いていないみたい。よし、このままいけば逃げ切れる、そう思った瞬間だった。


「…てかお前さっきから俺の顔見ないけど、なに隠してるんだよ」

「な、なんにもありませんよーだ!」

「嘘つくなよ!ほら、こっちむけって!」

「うわっ、ちょ、やーめーてー!」


顔に手を添えられ、ぐいっと無理矢理、叶の方に向けさせられた。私の努力も虚しく、短く切り揃えられた前髪を見られてしまったわけだが、当の本人はなにも言ってこない。絶対にからかわれるだなんて勝手に思っていたから、それはそれで肩透かしを食らってしまった。


「……変なら変っていつもみたいに言ってよ」

「べ、べ、別に、変とかそういうわけじゃねえよ!」


そうやって顔を赤くしながら必死に弁解する叶がなんだか可笑しくて、ついつい顔が綻んでしまう。すると叶も「なんかガキの頃みてえだな」なんて言いながら眩しいくらいにきらきらと笑った。


レモンガール
     オレンジボーイ


20120402 title by Largo


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