なんだか視線を感じた気がして隣を向いてみると、そこには黒板を見つめる柳の横顔があった。


(…きれいだなあ)


綺麗、という言葉は柳のためにある言葉なんじゃないかと思うほどに柳にはその言葉が相応しかった。男にしておくには勿体ないと思うくらいの睫毛だとか、さらさらな髪だとか。とにかく柳は綺麗だった。柳を視界に映す度に、やっぱり好きだなあ、なんて思う自分は心底柳に惚れている。

それにしても、見られていると思ったのが勘違いだったなんて、ああもう恥ずかしすぎる!穴があったら入りたいってまさにこういう状況。そんなことを思いつつ、視線は柳に向けたままに私はずるずると机に項垂れる。止まることを知らないかのように忙しなく動いていたシャーペンが急に止まったのがわかった。


「そんなに見られていたら、穴が開くだろう」


耳に響く低音に反射的に体が震えた気がした。柳の綺麗な指から目線を上にやると、緩い弧を描いた口許が視界に映る。他人からじろじろ見られたら誰だって不愉快に感じるだろう。菩薩のように優しい柳だから、怒っているのに笑顔なんだ、となぜだか直感的に思った。


「ご、ごめん…!」

「…は?」

「いや、その、じろじろ見ちゃって…」


許してくれるだろうかと、不安になりながら私は口を閉ざした。すると、柳は困ったように眉を下げる。「…そんな顔するな、別に俺は怒っていない。」ふう、とあからさまに安心して息が漏れる。


「よかったあ…!」

「…みょうじは見ていて面白いな」

「面白いってなに!ていうかそ、そんな顔って私、どんな顔してた…?」

「捨てられた子犬みたいな顔」

「こ、子犬…」


机に項垂れたまま、腕に顔を埋める。子犬と言われ、少なからずショックを受けてしまった私は、確かに女の子なのだ。しかも、こんなにも綺麗な人に恋をしている無謀極まりない女の子だ。ていうかなんだ子犬って。もはや人間じゃないし。そんなことを考えてからハッとした。もしや恋愛対象外ってことを遠回しに言っているのかもしれない。そう思って柳を見やると、当の本人は私の心配など気にもせず、楽しそうに笑っていた。


「お前、飼い主はどうしたんだ?」

「…捨てられた」とぶすっとしながら言うと、柳の手が伸びてきて髪をぐしゃりと撫でられた。


「だったら俺が拾ってやらなければならないな」


「…犬じゃないもん」そんなことを言いながら、たぶん私の顔はこれでもかって言うほど真っ赤だろう。それを柳に見られたくなくて俯いた。しばらく経って、顔の赤らみも薄れた気がする。もう前向いちゃったかな、なんて思いながらふと顔をあげると、そこには私が好きなあの笑みがあった。ああ、やっぱり彼は綺麗だ。


一目会えばおしまい


20110509 title by Largo


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