君とドルチェ
現在時刻は午後3時。
お昼ご飯も食べ終わり、適度に小腹も空いてくる頃。
ゆきはジョルノがおやつに、と買っておいてくれたプリンを食べようと冷蔵庫へと向かった。
パッショーネと呼ばれるイタリアでは知らない人はいないであろう、ギャングのボスであるジョルノは齢15にして多忙極まりない。
ジョルノの強引なアピールによって、半ば同棲を始めたものの一緒にいられる時間はごく僅か。
寂しいなんて、そんな言葉を決して口には出さないけれども、心にぽっかり穴が空いている様な気がしてならなかった。
「ゆき、見てください。あのプリンはぼくのお気に入りのプリンなんです。…このプリンは、まるでゆきみたいなんだ。だから、好きなんです。いつか、ゆきにも買ってあげますね。」
「ほんと?…楽しみ!約束よ、ジョルノ!」
いつの日だったか、珍しくジョルノに空き時間が生まれ「ほんの少しだけ」とデートをしている時にこっそりと教えて貰ったのだ。
こっそり、というのも理由があった。
流石のジョルノであってもギャングのボスとなり、それ迄は気にせず堂々とプリンを食べていたのだが、威厳や体裁を少しばかり気にしてか外では甘味の話題を全くと言っていいほど出さなくなってしまった。
そしてそれからというものの、ジョルノとはデートはもちろん、会うことすらままならないが、どうやらその約束は覚えていてくれたらしい。
冷蔵庫を開けると、"愛するゆきへ"とメッセージが添えられているお洒落な小箱が入っていた。
それをそっと取り出し、ジョルノが一式買い揃えてくれたこれまた高そうなスプーンを食器棚から取り出し、こだわり抜かれたダイニングテーブルにつく。
「いただきます。」
誰に言うわけでもなく、そう告げるとさっそくプリンにスプーンを差し込んだ。
トロッとしているのに崩れない。スプーンの上で形状を保つ、ぷるぷるとした黄金を口の中へと滑りこます。
瞬間、甘さと一緒に口の中でトロけだす。一瞬で広がった言い様のない幸福感。
「おいしい…!」そして堪らずまたひと口と、口の中へと運び込む。
夢中で食べる中、ふと現れたカラメルソースのほろ苦さに、切なさを感じてゆきは手を止めた。
溺れてしまう程の甘さと、溢れんばかりの幸福感。そして突如表れる、きゅうっと胸を締め付ける切ない気持ち。
この感覚は、まるで。
「なによ、これ、ジョルノみたいじゃあなあい。」
そう呟くと、ポロッと一粒の雫が頬を伝う。
あぁ、会いたい。会いたいな。
そしてまた一口、涙と共にプリンを口へ運び入れる。
「…おいしい。」
ジョルノが言っていた、"まるでゆきみたい"と言った意味が分かった気がした、と同時に恥ずかしさと嬉しさがやってきた。
あぁ、ジョルノも同じ気持ちになったのね。
離れているのに、通じている気がしてジョルノをもっと愛しく思う。早く、会いたいな。
そして、帰ってきたジョルノを抱きしめてこういうの。
「あのプリン、ジョルノみたいだった。」
君とドルチェ ドルチェの甘美と切なさはまるで。
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