いざ、終幕



「た〜のも〜っ!!!」

バタンっ!と大きな音が部屋中に響き渡る。職人達が人生を掛けて作ったであろうクラシックな、まるで彫刻の様な大きな扉を、両手で乱暴に押し開ける。

その部屋の主は大きな音を気にもとめず、ただ淡々と目の前の業務をこなしていた。扉を開けた本人である、あどけない顔をした少女はその顔に似合わない仏頂面で、仁王立ちをしながら口を開く。


「ちょっとぉ〜ジョルノ!私に失礼じゃあない?無視なわけ???」

「チャオ、ゆき。見てわかりませんか?ぼくは今仕事をしているんだ。」

「なによなによ!仕事仕事ばっかり言って!そんなに仕事が大事な訳〜???」

その言葉に、ジョルノは手に持っていた書類から視線を外しゆきを見る。

「そんな訳ある筈がないじゃあないですか。何よりも誰よりもあなたが大事ですよ。」

「ど〜みても、そうは見えないもん!…最近全然会ってくれないし。それに…。」

最初の強気な態度はどこへやら、徐々に目線は下がり語尾も小さくなっていく。終いには、ジョルノの位置からでは表情が確認出来なくなってしまう。

そしてジョルノは小さい子供をあやすかのように、優しくゆきに問いかける。

「それに、何ですか?」

「それに…私より、ミスタといる時間の方が多いじゃない…っ!!」

「はァっ!???おれェ!???」

ジョルノの横でまたか、というように書類に目を通していたミスタは突然自分の名前を出され、驚きで声をあげる。

さらに話そうとするミスタを制すように、ジョルノは右手を小さくあげた。ミスタはそのまま言葉を飲み込み、納得いかない様子で再び書類に視線を向ける。

「ゆき、ここへ来てください。」

ジョルノは書類が山のように溜まっている、自らの執務机へゆきを呼んだ。その言葉に気まづそうに、しかしゆっくりと歩み寄る。

そして柔らかそうなソファへ腰掛けるジョルノの傍に辿り着くと、いつの間にか書類を机に置いているジョルノの、ゆきよりも幾ばくか大きい手でゆきの手に触れた。

「確かに。最近は全然ゆきに会いに行けれず、
寂しい思いをさせてしまいました。すみません。けれど…」

ジョルノはそのままゆきの手を引く。そして腰を引き寄せると自らの膝の上に座らせ、後ろから大事そうに抱きしめて首元へ顔を埋めた。

「どうして僕がこんなに、頑張ってるかわかりますか?…ゆきとの時間を作る為です。」

「私との…時間…。」

「この仕事が終われば、まとまった休みが取れるんです。一緒に旅行に行きましょう。…行ったことないでしょう、二人っきりでの旅行です。」

「旅行!???」

驚きにゆきはジョルノの方へと振り返る。ジョルノの顔が首元にある為に、お互いの距離はほぼゼロ距離。しかし、その事よりもゆきは旅行に行けるという喜びが勝っており、普段ならば頬を紅くして照れるのであるが、今は全く気にならなかった。

「はい。二人っきりです。誰にも邪魔されない、二人だけの時間です。だから、お願いですゆき。あと少し…我慢できますか?」

「うん…。ごめんね、ジョルノ。我儘言っちゃって。」

「気にしないで下さい。ぼくだって、ゆきに会えなくて寂しかったんだ。だから、今は嬉しいんです。」

「ジョルノ…。」

周りをおきざりにして、二人だけの世界に入っているジョルノとゆきに対し「ウォッホン!」と乾いた咳払いが響く。その音の主は、全く面白くなさそうに書類を見ているミスタだった。

ジョルノは全く気にも留めていない様子で、再びゆきを抱きしめる力を強くする。

「ゆきも、僕のために頑張ってください。愛してますよ。」

そうしてジョルノは触れるだけの優しいキスを落とす。そしてすぐに頬を紅く染め上げたゆきを見て、可愛い人だと微笑んだ。


いざ、終幕
いつでも主導権はあなた


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