純粋な君へ



「オレ…オレ…わかんねェよ!!!…なんで、なんで、ダメなんだよッ!教えてくれよ、なァゆき!」

必死な顔で、大きな瞳を揺らしながら、縋るようにナランチャは言った。

「っ…ごめん。ナランチャ、でも…私…、怖いのよ。怖くて怖くて、仕方がないの…」

そしてナランチャの手を、思わず取ってしまいそうになりながらも私は突き放す。だって、仕方ないじゃあない。ナランチャの隣に私が並ぶ事なんて、出来ないのだから。

理由を口に出す事すら躊躇ってしまうほど、ナランチャは純粋で。そしてそんな純粋なナランチャに、心に惹かれたのは紛れもない事実で。

でもその純粋なナランチャといる事に、後ろめたさを感じてしまう。一緒にいると、時々自分がすごく汚くみえて、消えてしまいたくなるのだ。

「ゆきが好きなだけじゃあダメなのかよッ!!!…わっかんねェよ!!!好きで好きで仕方がねェこの気持ちは、どうしたらいいんだよ…」

「…ナランチャ。」

今にも泣き出してしまいそうな顔でゆきを見つめてくる。やめて、そんな目で見ないで。

全身全霊で、私の事を好きでいてくれるナランチャ。私だって、好きだ。好きで堪らない。でも、駄目なんだ、綺麗なナランチャに穢れた私は、釣り合わない。

「ゆきは前、言ってたよな。オレが純粋だって。」

いつだってゆきに笑顔を見せてくれるナランチャ。たまに喧嘩した時だって、子供っぽく見られるのを嫌がる癖に、不貞腐れてそっぽを向いて。でも直ぐに機嫌を治して、ケロリとゆきを抱きしめてくれる。喜怒哀楽が豊かな、純粋な男の子。

「オレからしたら、ゆきの方が純粋だぜ?…それって結局、自分がどう思うかだろ?オレだって、ゆきを抱き締めるのが時々怖くなる。このまま抱きしめちまったら、壊しちまうんじゃあないかって…」

「そんなわけ…っ!!!」「ゆきッ!!!」

そんなわけない。って言おうとした言葉は、ナランチャの声に掻き消される。

「もっと、オレを頼ってくれよ…オレってそんな頼りないかよ…。確かにオレ、直ぐ不貞腐れるし口だって悪ィし、頭も悪ィけどよ…。命掛けてでもゆきの事を守りてぇんだよ。大切なんだ、それくらいゆきの事が。…分かってくれよ、ゆき。」

ナランチャの瞳にゆきの姿が映る。キラリと光るものが視界に入り、ようやく自分が今泣いている事に気付く。

「…あれ、なんでだろ、涙が…勝手に。」

ゆきが涙を拭うよりも早くナランチャの暖かな手が、頬を流れる雫を掬う。

「…昔からゆきって強がる癖に、直ぐ泣くよな。オレ、そういうゆきの純粋なとこが好きだぜ。可愛いってゆーか、愛しいってゆーかさ!なんつーか、その、上手く言えねーけど、オレが守るからさ…」

ナランチャはぎこちなく、しかし、しっかりとゆきの手を握りしめた。

「その怖いって気持ちも、オレが受けとめる。ゆきが不安になる度、オレが支えるからさ…オレの隣に居てくれよ!」

ニカッと、まるで向日葵が咲くように笑いかけるナランチャ。あぁ、その笑顔が、堪らなく好きだ。

ナランチャの気持ちなんて考えずに、一方的に私が決めつけて。純粋だ、綺麗だなんて言って、本当のナランチャを見ていなかった様な気がした。

私が思っているよりも、いや、それ以上にナランチャは強いのだ。

「ナランチャ…ありがとう。ごめんね、変な事言って…っ、きゃあ!!!!」

「あーーーっ!よかった!!!ほんとよかったっっっ!!!!オレの隣に居てくれるんだよなッ!大好きだぜ、ゆきっ!」

ナランチャはゆきの身体をいとも簡単に、軽々と持ち上げ抱き締める。

すっぽりとその腕の中に収まるゆきの顔は、驚きの表情のまま固まっていた。が、暫くしてナランチャの首に手を回し、自らも抱きつく。

「ナランチャ、大好き。」

「何言ってんだよ、オレの方が好きに決まってんだろ?」

「いーや!私の方が、好きなんだから…っ!」

「…ぷっ!案外ゆきって、子供っぽいよな!その負けず嫌いなところとかさ!」

「そ、そんなことっ!!!…ある、かも。」

お互い顔を見合わせて、もう一度吹き出す。

確かに不安になる事もこれから、沢山あるはずだ。嫌になることだって、泣き出してしまいたくなる事だって、数え着れない程訪れるだろう。

けど、ナランチャだから。ナランチャとだから、乗り越えられる気がする。何度凹んでも、その度にナランチャの笑顔で救われるんだろう。

そして私もナランチャにとって、私がナランチャにそう感じているように、救われるって思ってもらいたいと心から願う。

だから、何度でも伝えようと思う。


純粋な君へ
全身全霊の愛してる


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