二番目に、好きな人
「おにーちゃんっ!」
バターンッと勢いよく扉が開かれ、勢いよく女の子が入ってくる。
今日もパッショーネ、ブチャラティチームには明るい声が響くのだ。
「おいおいおい、今日も来たぜ?兄離れ出来てないお子ちゃまがよォ〜!」
「うるさいなぁ、ミスタ!だってお兄ちゃんが好きなんだもん。別にいいでしょっ!ミスタに会いに来た訳じゃあないんだから!」
「かーーっ!!!可愛くねェやつ!!!」
ミスタは勢いよくゆきから顔を逸らした。
一方のゆきは、ソファに優雅に座り紅茶を啜るブチャラティの元へと満面の笑顔で駆け寄る。
そして、その隣に座るとブチャラティへピタリとくっついた。
「チャオ、ゆき。今日も元気だな。」
「チャオ!お兄ちゃん!今日もお兄ちゃんに会いたくて遊びに来ちゃった!」
「はは!"俺に"…ね。いい加減素直になるんだぞ、ゆき。」
そうブチャラティは優しい微笑みを向け、ゆきの頭をぽんぽんと撫でる。
ゆきは少しだけ頬を膨らませ、ブチャラティを見た。
「お兄ちゃん!内緒って言ったでしょっ!!…それに、お兄ちゃんが私の1番だもん。」
「…そうか。なら、そういう事にしておこう。」
「もーー!お兄ちゃん!」
ぷりぷり怒っているのに、どこか嬉しそうに見えるゆき。
なんだかんだ言いながらもゆきは優しくて、格好良くて、街の人気者のブチャラティの事が大好きであり、自慢の兄なのだ。
「なにお前ら兄妹で宜しくやってんだァ?どれ、俺も混ぜてくれねェか?」
そう言ってミスタはゆきの横へドカリと座り込む。そして腕をゆきの背中側へと回すと、ニカッと笑った。
「…なっ、ミ、ミスタはあっちいってよ!も〜!」
「なんだよっ!別にいーじゃあねェか暇なんだしよォー!!!」
「ミスタ、しばらくゆきの相手をしてやってくれないか?…俺はちょっと済まさないといけない用があるのを思い出したんだ。」
「え!?なんでお兄ちゃん!」
「悪いなゆき。…ミスタに相手してもらうんだぞ?じゃあな。」
すっかり紅茶を飲み終えたブチャラティは、立ち上がった。そしてゆきにウインクをすると歩きだし、部屋を後にした。
取り残された2人は、少し気まづそうに視線を逸らす。そわそわし始めたゆきに対してミスタは視線を逸らしたまま話しかける。
「お前よォー…」
「え!?な、なに!??」
「ブチャラティ以外に好きなやつとかいんのかよ?」
「な、何その質問っ!!!」
勢いよくゆきはミスタの方へと視線を戻す。
「別に特に深い意味はねぇんだけどよォ、俺の素朴な疑問。」
「…べ、別にいるけど!もちろん1番はお兄ちゃんだよ!当然に!当たり前にっ!!!」
「お!なになに!いんのかよ!誰だよ、教えろよ〜 !」
ミスタはゆきの肩を抱き寄せ、顔を覗き込む。
「なんで言わなきゃいけないの!?」
「いーじゃねェか!減るもんじゃあねーんだしよォ…それとも、言えないようなヤツなのかよ。」
「そ、そういう訳じゃあないけど…」
「さてはお前ェ!強がっているって嘘ついてやがるのか?」
ゆきの肩に手を置いたまま、ニヤニヤと口元に手を持っていきながら見下ろしてくる。
「ち、違うしッ!!!」
「そーかそーか、いんだぜ痩せ我慢なんざしなくてよォ。」
「…っ違うって!ミスタよ!ミスタなの!…でも、勘違いしないでよね!お兄ちゃんの次だけどね!遠く及ばないけどねっ!!!」
力任せにミスタの肩を突き飛ばす。不意だった事もありミスタは背中からソファにひっくり返る。
「本当に勘違いしないでよねッ!!!」
そのまま立ち上がったゆきは、ミスタの前から走り去る。入ってきた扉から、今度は勢いよく飛び出して行く。
「(言っちゃった言っちゃった言っちゃった…っ!!!!)」
ネアポリスの街を、全力疾走する。すれ違う人の好奇の目すらも今のゆきには全く気にならなかった。
一方のミスタはソファに倒れたまま、両手で顔を覆っていた。ちらりと覗くその頬は、嬉しそうに上がっていたのだった。
二番目に、好きな人 素直になれないのはまだ子供だから
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