悪魔がやってきた



ここは日本。

とても平和で、豊かで、幸せな国である。私、ゆきも彼氏こそいないがそこそこ幸せな人生を送っていた。


今日は久しぶりの休日でゆきはのんびり昼まで寝ており、ちょうど今さっき体を起こしたばかりだ。とうに12時は回っている。

ベッドから降り、薄暗い部屋に光を入れるため窓へと近づく。


勢いよくシャッ!とカーテン開ける。外は青々とした空が広がっており、無意識にゆきは窓をあけた。


その時。


"何か"がゆきの部屋に突っ込んできたのだ。"何か"を認識する前に、素早いスピードでゆきに衝突してきた為、身構えも出来ずそのまま後ろへ倒れ込む。

ドスン!という音と共に、ゆきは体の上にも下にも衝撃が走った。


「い…いたた…っ」

衝撃に備えてつい無意識に閉じてしまった目を開くと、まず目に入ったのはキラキラと輝く金。

「(なにこれ。衝撃で目がチカチカしてんの?)」

寝起きでまだ頭が働いていないということもあり、ぽけーっとその金を見つめていた。

すると、その金は動いたのだ。

「(え、なに?なに?動いた?)」

呆然とするゆきの目が、次に捉えたのは人の顔だった。美しく整った人形の様な顔。

先程の金は髪の毛だったようで、くるりとカールしている前髪が見える。その珍しい髪型が、より人形らしさを引き立てていた。


「…いつまでぼさっとしてるんですか。」

よっ、と言う声と共に喋り声が聞こえた。

見かけは中性的だが、声からして男ということが分かる。…分かるのだが。

この男には、人と違うものがついていた。


「…は、は、は、はね…っ!!!??」

立ち上がって腕を組み、こちらを見下ろす男には羽が生えていた。

それも、見かけは美しい"天使"のようであるのにも関わらず、実際生えているのは"悪魔"のような羽だった。


「あぁ、コレですか?」

男はそう言って背中の羽をパタつかせる。パタパタと揺れる羽は、どこからどう見てもゆきの知る"悪魔"のソレであって。


開いた口が塞がらない状態のゆきとは正反対に、その男は真剣そうな顔で部屋をキョロキョロと見渡す。

不満そうに眉間にシワを寄せたかと思うと、ため息をついてゆきを見た。


「狭い部屋ですね。しかし、まぁここで我慢しましょう。」

「…え?ちょっ」

「あぁ、まだあなたの名前を聞いてなかったですね。…ぼくはジョルノ・ジョバァーナ。見ての通り、悪魔です。」


「ちょっ、ちょっとちょっと!ちょっとまって!?いま、なんて!?」

「うるさいな、ぼくは同じ事を2度言うのは嫌いなんだ。」

「ちょっと!だいぶ理不尽!!!」

「今回だけですよ?特別にもう1度言います。…ぼくは悪魔で、今日からあなたの家に住むんだ。悪魔といっても、あなたを不幸にする訳じゃあない。ぼくらにとっての天使と悪魔は、人間にとっての人種…みたいなものですからね。」

そう、ジョルノは得意げに言った。そして未だ座り込んでいるゆきの元へまたしゃがみ込むと、その顔を覗き込んだ。


まるで天使のような美しい顔のジョルノに近づかれ、ゆきはほんのりと顔を赤くする。


「ほら、あんたの名前は?」

「…ゆき、です。」

「ゆき…ですね。」

ジョルノはゆきの名前を小さく繰り返すと、ニヤリと笑った。妖艶な笑みを向けられ、心臓ドキリと音を立てたのがゆきには分かったのだった。


「今ので契約完了ですね。ぼくは今ので正式にゆきの悪魔になりました。」

「・・・へ?」

「ほら、さっき心臓がドキッとしたでしょう?・・・あれは契約完了の合図です。」


ゆきは心臓がある部分に無意識に手を置いた。確かに心臓は音を立てた。だが、あれは端正な顔のジョルノが近づいた故の胸の高鳴りのはずなのだ。

「なんの事?っていう顔をしてますね。」


くすりとジョルノは笑った。

「悪魔に自らの名前を教えると、契約が結ばれてしまうんです。ぼくとゆきの魂は今ので繋がりました。ぼくが死ねば、ゆきは死ぬ。もちろんゆきが死ねば、ぼくも死ぬ。」

「なんで・・・!!そんな、ジョルノにメリットなんかないじゃあない!」

「メリット・・・?メリットはありますよ?ぼくだけじゃあなく、ゆきにだって。」


さらっと言ったジョルノにゆきは言葉を詰まらせた。普通に考えれば、片方が死ねば死んでしまうなどリスクが高すぎる。というか、嫌すぎる。メリットなどゆきには到底考えつかないのだ。


「人間側のメリットは、悪魔と同じ寿命を手にする事が出来ます。なぜなら魂が繋がってるからだ。少しの傷ならぼくが治せるし、痛みは伴いますが体の部品も作れます。」

「・・・つ、作れるって・・・いや、いい・・・やっぱ聞くのはやめとく・・・。それじゃあ、ジョルノのメリットはなんなのよ。」


「・・・。ぼくのメリットは秘密です。でも安心してください。ぼくが死ぬようなことは絶対無いと断言します。そして、ゆきを死なせることも絶対させません。ゆきの事はぼくが守りますから。ずっと傍にいます。一生一緒だ。」


そのジョルノの言葉にゆきは再び心臓が音を立てる。

「(・・・まるで、まるで、この言葉は、)」

ドキドキとうるさい心臓の音を聞きながらゆきは思った。


「プロポーズ・・・?」

「っ!!!!」

ぽろりとゆきは考えていることを声に出す。子供の時からのゆきの癖で、どうしようもなく頭がパンクしそうになると、思ったことが声に出てしまうのだ。

そのゆきの呟きが聞こえたジョルノが今度は顔を真っ赤にさせる番だった。


「え、なに・・・!なんでジョルノが顔を赤くさせるの!?」

「うるさいな・・・っ!そんなこと、どうだっていいでしょう!!・・・それよりぼくはお腹が空きました。ほら、お腹が空いて死んでしまうかも。早く何か作って下さい。」

そうジョルノは言ってゆきに背を向けた。


数秒ゆきは呆然とした後、ハッとしたようにジョルノに向かって声を掛ける。

「・・・美味しくなくても、文句言わない?」

「言いませんよ。・・・それに、ゆきの作る料理はいつも美味しそうだ。」

「・・・え?」

「っ何でも無いです!・・・とにかくっ!早く作って下さい。ほら、早く!」


とにかく急かしてくるジョルノの声を聞きながらゆきは、しぶしぶ台所へと足を運んだ。

しかしその足取りはどこか軽やかで、楽しそうである。


この奇妙な美しい悪魔との、奇妙な共存生活は、こうして始まったのだった。


悪魔がやってきた
これが悪魔流プロポーズ(?)


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