ポケットに手を突っ込んで歩いた



自慢をする訳ではないが、私はモテる。

両親のおかげで恵まれた容姿を授かった私は、今まで全てのことにおいて困った事なんてなかったし、手に入らない物はなかった。


ちょっと可愛くオネダリすれば、大抵の人は我儘を聞いてくれたし、身を犠牲にしてまで願いを叶えてくれた人だっている。


でも、そんな私だって誰とでと付き合うわけじゃあないし、尻軽な女でもない。


今でも私は、子供の頃の恋愛を引きずっていた。


幼い頃、日本で育てられていた私。そんな中ほんの少しだけ、一緒に遊んだ男の子。名前は確か"初流乃"くん。

初めて恋して、子供ながらにこの人と一生一緒にいると、決めた人。


だけどお互い離れ離れになって、もうどれぐらい経つのだろう。

私は親に連れられて、このイタリア ネアポリスの街で生活していた。

残念ながら"初流乃"くんがどこで何をしているのかも、生きているのかも、今の私には知る術はなかった。


今日もいつもの様に、ポケットに手を入れて歩いていた。

必要以上にこの体に触れられない為に編み出した、我ながらナイスアイデアな行動だった。


そうすることによって触れられないどころか、ガードさえも固く見られることによって、不要なナンパも防ぐ事に繋がったのだ。

そんな時。

「すみません、ちょっといいですか?」

「…。」

声を掛けられ、チラリと男に視線を向けた。そこには美しい金髪が印象的な、どちらかと言えばまだ少年と呼ばれる部類の男の子がいた。


「もしかして…ゆき?」

男の子は首を傾げながら聞いてきた。

「そうですけど…あなたは?」

「僕は、ジョルノ・ジョバァーナって言います。…ゆきにとっては、汐華初流乃って伝えた方が分かるかな?」

「…っ!ちょっと!」


ゆきはジョルノへと体を向け、その肩を力任せに握った。

「どこでその情報を、手に入れたのか知らないけど…バカにしないでよ!それにね!"初流乃"くんはもっと可愛くて…っカッコイイのよ!」

そう言って、ゆきは勢いよくジョルノを突き飛ばした。

そして突き飛ばされたはずのジョルノは、とても嬉しそうに笑っていた。


「…何がおかしいの?」

「いえ…ただ、 僕が"初流乃"だって分かってもらうと共に、"初流乃"より僕の事を好きになってもらわなくっちゃあいけないな、って思っただけです。」

「…っ!な、何言ってんの!?」

「一応言っておきますけど…」

そう言ってジョルノは一歩ゆきへ近付いた。

「ある時、急にこの金髪になったんです。…この色は父親譲りなんだ。だからゆきの知る黒髪の"初流乃"は、もう何処にもいないですよ?」

そして、またもう一歩。ジョルノはゆきとの距離を詰める。


「必ず、"初流乃"より好きにさせてみせます。そして、好きになった事を後悔なんかさせません。」

いつの間にか、ジョルノの手には美しい1本の薔薇の花が握られていた。


「コレをゆきに…。」そう言うとジョルノはその薔薇を、ゆきの髪へと差し込む。

「やっぱり。ゆきは花が似合います。」


そう言ったジョルノは、懐かしい記憶の"初流乃"くんと重なって。

ゆきはいっぱいいっぱいになって、ジョルノの前から立ち去る。


「(…昔、"初流乃"くんもお花を髪に挿してくれたっけ。)」

少し赤くなる顔をそのままに、ゆきはまたポケットに手を入れた。


ポケットに
手を突っ込んで歩いた

貴方以外に触れられたくなくて。


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