二人で堕ちていく。



あの日、フーゴとゆきはボートに乗れなかった。

どうにもならない窮地に陥っていた時、必要だと手を差し伸べ、救ってくれたブチャラティには…ついて行かなかった。


ブチャラティの事は尊敬していたし、ミスタもナランチャもアバッキオも、そしてジョルノの事も心から好きだった。もちろん、トリッシュの事も。


なのに。

私の足は動かなかったのだ。


あの時、運河に飛び込みボートに向かって泳いでいくナランチャを、ただただ見ている事しか出来なかった。

なんて愚かなのだろう。

そう自分を責めることさえも、私とフーゴは出来なかった。


みんなの乗ったボートが見えなくなっても尚、二人はしばらくその場から動けないでいた。


先に沈黙を破ったのはフーゴだった。


「…僕は、ゆきがここに残ってくれて、心からほっとしているんです。」

そう、ポツリと呟いた。

「…フーゴ。」

「きっとあのボートに乗っていれば、ゆきに未来はなかっただろう。…僕は、心のどこかでゆきにだけは乗って欲しくなかった。」

「私、なんで乗れなかったんだろう。…なんでなんだろう。なんでなのかな、フーゴ…。」


下を向きぶるぶる震えているゆきを見て、フーゴは堪らなくなり抱き締めた。

今のゆきはまるで、フーゴ自らの心の声を代弁しているようで。そして、このままゆきが消えてしまうのではないかという錯覚にフーゴは襲われた。


「もう、何も言わないでください、ゆき。」


何も言わず、ゆきは静かにフーゴの背に手を回す。

フーゴの温もりが、ゆきに生きている実感をくれる。あぁ生きてる。私が、フーゴが。生きている。

その実感と共に、同じように震えるフーゴに気付いた。


あぁ、フーゴと私は、同じなのだ。

「(もうきっと、戻れない。)」

組織にも、普通に生活することにも。


堕ちる所まで、一緒に堕ちていこう。同じ罪を分かち合い、同じ生を共有する。

これが、今の私たちに出来る最大の精一杯の事なのだ。


そんな二人とは裏腹に、サン・ジョルジョ・マジョーレ島の空は、清々しい程に晴れ渡っていた。


二人で堕ちていく。
どこまでも一緒に


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