ブチャラティと豆まき
「ブチャラティ!知ってる?…2月3日の今日は、日本でいう節分の日なんだよ!」
ゆきは恋人のブチャラティへと尋ねる。
「なんだその、せつぶん?…っていうのは」
初めて聞く言葉にブチャラティは思惟する。
「あれ、知らないの???明日から春ですよーって知らせる日のことなの!…日本では季節の変わり目には鬼が出るって言うから、豆を巻いて追い払う習慣があるの!」
しかも、その豆たちを歳の数だけ食べるのよ?
そう笑顔でブチャラティに伝える。
「ま…豆…」
豆が苦手なブチャラティは、笑顔なゆきとは対称的に頬をピクリと痙攣させる。
「じゃあ、豆は私が食べてあげる!折角だから豆まき、やってみましょうよ!」
そういってゆきはどこから持ってきたのか、紙でできた鬼のお面と、豆がしっかりと入っている箱を取り出した。
「じゃあ、先に私が鬼になってあげるね!」
ゆきは、なんとも言えない可愛らしい鬼のお面を被り、ブチャラティに豆を渡す。
「鬼は外、福は内って言って、私に豆を投げて頂戴!」
さあさあ!とゆきは、豆を持って狼狽えるブチャラティを急かす。
「お…鬼は外…、福は内…。」
そう、ブチャラティらしく優しく豆を投げてくる。
「もっともっと!しっかり投げないと、鬼がきちゃうんだから!」
「お、鬼は外!福は内!!!…こうか?」
「そうそう!そんな感じよブチャラティ!」
少しふっ切れたようなブチャラティは楽しそうに豆を巻く。
「俺ばっかり投げて悪いな…次はゆきが投げるといい。」
ブチャラティは、豆の入っている箱をゆきへと渡し、ゆきの耳に輪ゴムを使ってついているお面をそっと外してやる。
「え、ブチャラティ…それ、付けてくれるの!??」
「…???つけなきゃ豆まき出来ないんだろう?」
そういって、鬼のお面をつけるブチャラティ。
なんというか、想像通りのスタイルが無駄にいい鬼となっていた。
男らしい体格と、すらっとした身長には似合わない、どこか可愛らしい鬼のお面。
これほど鬼のお面がミスマッチな人はいないだろう。と、ゆきは確信した。
鬼となったブチャラティは、ちょこちょこと動き回り豆をかわす。
「ちょっとブチャラティ!豆を避けたらダメじゃんっ!!!」
あまりにもゆきの投げる豆をかわすので、ついつい突っ込む。だって、豆を鬼に当てないと意味ないじゃあない!なんて思いながら。
ブチャラティは、ハッとした表情で、
「すまないゆき!つい、反射的に…。」
なんて言っているが、そこはさすがギャングという点では褒めてやりたい。
しかし、今は豆まきなのだ。
避けられてはゆきの今年の今後に関わってしまう。
「じゃあ、改めてもう1回!!!!…鬼は〜外!福は〜内っ!!!!」
えいっとブチャラティに豆を投げる。
今度はブチャラティもしっかり豆を受けてくれる。
パシパシっといい音がなり、すっかり楽しくなったゆきは、ブチャラティへとひたすら豆を投げる。
たまに避けるブチャラティに、当ててやろうと狙いを定めて投げつける。
ついついそんなやり取りをしていると、気づけばもう豆は無くなっていた。
「あ!!!!!しまった!!!!!」
「…ん?どうしたんだゆき???」
ブチャラティは、鬼のお面を外しながらゆきを見る。
豆を投げるのとかわすので、あまりにも真剣になってしまい、適度に息を切らしている2人であった。
が、ゆきは重大な事に気づいてしまった。
「豆…食べる分残すの忘れてた…。」
ガーーーーンっと言う音が聞こえそうなほど落ち込むゆき。
ブチャラティとしては、食べずに済むのでラッキーといったところだが、あまりにも落ち込んでいるゆきを見兼ねて声をかける。
「心配しなくていい。…豆なんか食べなくてもゆきの事は、俺が必ず守ってやるさ。」
ゆきはさっきまで落ち込んでいたのが嘘のように真っ赤になったあと、嬉しそうに微笑んだ。
「そうだね、ブチャラティ…。ありがとう!!!!」
未だ嬉しそうに笑うゆきを見ながら、ブチャラティは頭をそっと撫でてやった。
なかなか日本の文化も悪くないな、なんて思いながら。