デザートはプリン


4月16日。

いつもと変わらない、ポカポカ陽気が気持ちいい春だ。

流れていく日々の内のひとつで、何の変哲もない普通の日。

ーーーだった。


彼、"ジョルノ・ジョバァーナ"に出会うまでは。


今年の4月16日は、私にとって自分の誕生日よりも特別な日に変わった。

何よりも愛おしくて、掛け替えのない彼の、この世に生まれた世界で1番大切な日。

それが、今日なのだ。


ジョルノと出会ったのは、約1年前。

出会った日も、今日みたいに暖かい春の陽気を感じられる日だった。


ジョルノはジャッポーネへと旅行に行った時に見た"桜"の様な美しさを持っていた。

1本の力強い太い木から無数の細い枝がなり、そこから純真無垢な美しい白い花が咲き乱れる。

その桜は怖いくらいに美しく、舞い散る花びらも含め、全てが神々しい。


出会った瞬間、あの時見た"桜"の様な、ジョルノのその姿に目を奪われたのだ。


そこからお互い引かれ会うのは時間の問題で、あっという間に二人は恋仲になった。


愛しいジョルノは、今日も誕生日だというのに仕事だという。

ゆきはもらった合い鍵を手にして、ジョルノの家に忍び込む。


所謂"サプライズ"ってやつだ。


出会って1年程しか経ってはいないが、ジョルノの好きなものは知っていた。

"ギャングのボス"なんていう肩書きを持っているものの、まだ少年の部類に入るのである。

ジョルノはプリンが大好物なのだ。あと、チョコも。


お菓子作りなど滅多にしないゆきだが、この日の為に沢山練習したのだ。それこそゆき自身がしばらくプリンなど食べたくないというほどまでに。


時刻は午後8時。

きっともうすぐジョルノは仕事を終え、帰ってくる頃のはず。


部屋の電気を消し、玄関でジョルノを待つ。

気配に敏感なジョルノは、きっと部屋にゆきがいることなどはきっと予想しているだろうが。


しばらく待機していると、廊下から微かに足音がした。

「(この足音はジョルノね・・・)」


ゆきは手に持つクラッカーの紐を強く握りしめる。

ドキドキドキ。

心臓の音が、廊下を歩くジョルノに聞こえてしまうんじゃあないのかというくらいに、ゆきの心臓は大きく動いていた。


ーーーガチャリ。

「ゆき?来てるんですか?部屋の電気も付けないでどうしたんですか・・・っ!!!」


パァァンッッッ!!!!!


ジョルノの言葉に被せるように、そしてジョルノが部屋の電気を付けた瞬間にゆきはクラッカーを引いた。


部屋の唯一の明かりでもある、玄関の照明が照らすジョルノの顔は心底驚いた顔をしており、いつも冷静なジョルノはいなかった。

ゆきはジョルノの、ゆきの前だけでしか見せない顔を見るのが好きなのだ。


「えへ、ジョルノ。お誕生日おめでとう。」

「・・・誕生日??誰が・・・?」


ぽかんとして、ジョルノは聞き返してくる。

「誰がって・・・ジョルノに決まっているでしょう?」

「・・・あぁ、そうか。今日はぼくの誕生日なのか。・・・今まで誕生日なんか意識したことないので、すっかり忘れていました。」

少し申し訳なさそうに、ジョルノはゆきに告げた。


「ほらジョルノ、こっちへ来て!」

どこか自分の誕生日の実感が湧いていないジョルノの手を引いて、奥の部屋へと連れて行く。


ゆきが玄関の奥の部屋を繋いでいるドアを開け、ジョルノが先に部屋へと一歩踏み出す。

その後に続きゆきも部屋に入り、後ろ手に電気を付けた。


「・・・ッ、これは・・・!!!」

明るくなった部屋で、ジョルノが見たものは。


壁には色とりどりの風船や、キラキラ光るモールなどが飾られており、いつもの落ち着いたジョルノの部屋はなかった。

まるで、パーティ会場の様な華やかさが溢れる空間が広がっている。


そして風船に囲まれるように

『ジョルノ お誕生日おめでとう』

というゆきが書いたであろう、可愛らしい文字が真ん中に飾られていた。


「・・・全部、ゆきがやったんですか?」

「うん!そうだよ?思ったよりも時間かかっちゃったんだけど・・・。」


その部屋を見つめながら、ジョルノはぽつりと呟いた。

「・・・ぼく、誕生日を祝われるのなんか、初めてです。」

「ジョルノ・・・。」


ジョルノは昔から、親の愛情を感じたことがなかったらしい。今で言う"ネグレクト"というやつで。

日本で暮らしてきた事もあったようだが、イタリアに住むようになってからも、誕生日はおろか毎日の食事でさえも、家族に作ってもらった記憶はないのだそうだ。


「ぼく、いまこの瞬間が凄く幸せです。夢を見ているようで・・・」

ジョルノはゆきを見て微笑む。


「・・・何度だって、これから祝ってあげる。」

ジョルノの微笑みはとても儚くて、ゆきは思わずジョルノを抱きしめた。


「ジョルノは、お母さんのこととか、あんまり好きじゃあないかもしれないけど。それでも私はジョルノのお母さんに、ありがとうって言いたい。・・・だって、こんなに愛おしいジョルノに出会うことが出来たんだもん。」

「ゆき・・・」


ゆきの耳には、ジョルノがはっと息を呑む声が聞こえた。

抱きしめながらジョルノの瞳を見られる、目と鼻の先まで動く。


そして、ジョルノの目をはっきりと見ながら言った。

「ジョルノ、生まれてきてくれてありがとう。・・・私に、誕生日を一緒に祝わせてくれて、ありがとう。」


「…ぼくのほうこそ。誕生日が、こんなに素敵なものだって知らなかったです。ゆき、ありがとう。ゆきと出会うことが出来てよかった。…世界一、いや、宇宙一ぼくは幸せ者だ。」

そう言うとジョルノは、ゆきの唇にキスを落とす。


お互い、こんな幸せな口づけがあるのかと感じた。

ジョルノは、今日の出来事を一生忘れないだろうと。

ゆきは、ずっとジョルノに幸せをあげたいと。


そして一生一緒にいるということを、二人は自らの心に誓ったのだった。


「ささ!ジョルノ、一生懸命ご飯も作ったんだよ!食べよ食べよ!」

「わぁ!美味しそうだ!」

「ふふ!デザートはジョルノの大好きなプリンだよ!」


喜ぶジョルノの様子を、ゆきはこっそりカメラで写真を撮った。

その顔は、幸せそうで。

後日、ゆきはその写真を自分の部屋に飾った。


デザートはプリン
幸せそうな君を見るだけで幸せ


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