よんがななこ。
寒かった冬もようやく終わりを迎え始め、ポカポカと暖かい日差しが差し込む様になった4月。
そんな気分も清々しくなるはずの春に、私の恋人のミスタはひとり真逆の感情を抱いていた。
理由は至って単純。
"4"という数字がつく季節だから。
普通の人は何言ってんだと鼻で笑うだろうが、ヤツは本気なのだ。
ミスタは、本気で"4"を怖がっていた。
普通の人は普通の日であるはずなのに、ミスタにとっては恐怖の日がやってきた。
"4月4日"
この日はなんと、"4"が7つも並ぶ瞬間が訪れる。
4月4日 AM.4時44分 44秒
ちなみに今の時刻は、4時35分である。
当の本人であるミスタは毛布に包まって震えていた。
「ちょっとミスタ、そんなに怯えないでよ!こっちが寝れないじゃん!」
まだ太陽は沈んでおり、世の中の人達は深い眠りについていることだろう。
「怯えずにいられるかよ…ッ!!!今年最悪の日がまたやってきたんだぞ…ッ!!!」
そう、くぐもった声でミスタは言った。
「もう、どこが今年最悪なの?…仕事も休み貰って、大好きな彼女と1日ずっといれるのよ?」
ブチャラティは"4月4日"はミスタが再起不能になる事を見越しており、予め休んでいいと言ってくれたのだ。
「それとこれとは訳がちげーんだよッ!!!おいゆき、いま何分だッ!?」
「はいはい、いま4時41分です。」
「ああ、俺はもう終わりだ…」
大袈裟に落ち込むミスタに呆れのため息が溢れる。
そもそも家に居るのに、どんな危ない事が起きるというのか。
まさかマンションが倒壊するなんて事も起こるはずもなく、例えそうなってしまったらもうミスタだけのアンラッキーdayではなくなってしまう。
ふとゆきの頭のに、素晴らしいアイデアが浮かんできた。
ゆきは込み上げてくる笑いをなんとかこらえ、行動に移そうと時計を見る。
今の時刻は、"4時43分30秒"。
そろりそろりと、ゆっくりミスタの包まる毛布に近づく。
そしてゆきは思いっきりミスタから毛布を剥ぎ取った。
"4時44分30秒"
突然自身を包む毛布が無くなり、丸まりながら驚きで呆然としているミスタの肩を引っ張って、無理やり上体を起こさせる。
"4時44分40秒"
ミスタと向かい合わせになるように、近くに移動し顔をグイッと近づける。
"4時44分42秒"
ちらりと時計を視線で確認する。
"4時44分44秒"
ミスタの唇に、柔らかい衝撃が訪れる。
"4時44分50秒"
ミスタは唇を手で覆った。
ミスタの目が捉えたのは、不敵な笑みを浮かべるゆきの姿だった。
「な、」
ぽつりと声にならない声を出すミスタに、ゆきは「ふふふっ」と小さく笑う。
そして、楽しそうにミスタに話しかける。
「どう?今年の"4月4日の4時44分44秒"は、私との"ちゅー"の時間になったわね?」
ゆきはミスタへ剥ぎ取った毛布を投げ返すと、欠伸をひとつして未だ座り込むミスタの隣へ寝転んだ。
まだまだ4月4日は始まったばかりだが、ミスタの心は少し軽くなった。
頭にかかった布団をもう一度被り直すと、ミスタは何も言わずゆきの傍へとすり寄った。