フェリーチェ 1/3
ゆきとミスタはタクシーの中で、静かに走行音を聞きながら揺られていた。
ギャングでもあり恋人でもある二人は、任務を無事に終え報酬が入った時に遠出をするのが恒例だった。
しかし、今二人の間に漂っている空気は決して恋人達の雰囲気ではない。
いうならば、まるでお互いを敵対し合っているような。
そしてそんな二人を乗せたタクシーの運転手は、車内に漂う険悪な雰囲気にただただ怯えるしかないのだった。
ゆきとミスタの視線の先は、お互い流れゆく景色へと向けられている。
そう、これはただの痴話喧嘩なのだ。
だが、喧嘩してまでなぜ一緒にタクシーに乗っているのか。
理由は至って単純。
今日に限って、リストランテを予約していたのだ。
ブチャラティによると、今回の任務は非常に大金が入るものであった。
例により、遠出の恒例行事にゆきは前々から目を付けていた、イタリアでも超高級なリストランテに行きたいとミスタに提案した。
普通ならイヤダと言われるであろう場所だったが、大金が手に入る事もあり快くOKが出たのだ。
ミスタの気が変わらないうちに、ゆきはリストランテを予約した。
日時はもちろん任務を頑張れる為にと、その日の夜である。
そして任務当日の日。
今回の作戦はチームの紅一点でもあるゆきが、ターゲットに近づき油断させた後に暗殺向きのスタンドを持つミスタがトドメを刺す。
ターゲットは想像していたよりも遙かに変態野郎であり、ゆきの身体をベタベタと触るのだった。
そのあまりの気持ち悪さに、思わずトドメを刺しそうになった。
が、しかし。
人目が多い場所での攻撃は、すなわち失敗を意味する事となる。
チームの誰よりも任務に対してまじめなゆきは、崩れかけそうになる愛想笑いを何とか続けた。
そしてその甲斐もあり、ターゲットを人気の無い場所に誘い込む事に成功。
最後にミスタの変幻自在に弾を導けるスタンド能力によって、任務完了となった。
そこまではよかったのだ。
ブチャラティの元へと戻り、一足先に戻っていたミスタと合流する。
「お疲れミスタ。今回の任務もなかなか疲れたね〜。」
そう笑顔でミスタへと話しかけにいく。
「・・・お前さァ。あんなにベタベタ触られてた癖によォ、よくヘラヘラ笑ってれんのな。」
顔を背けられ冷たく一言告げらたゆきは、思わず固まる。
そんなゆきを気にも留めず、ミスタは横を通り過ぎていった。
言われた事を理解しようと高速で頭がフル回転する。
「(え、なに?ちょっと待って。今・・・私、何て言われた???)」
あの場でターゲットを始末していたら、この任務は失敗に終っていたはずだ。
そうなればあの大金もパーである。
褒められるのならば分かるが、怒られる筋合いなどゆきには全くない。
「はぁ!??超むかつくッ!!!!」
ミスタに言われた事をようやく理解したゆきは、その場で誰に向けるわけでもなく怒鳴った。
たまたま傍を通りかかったナランチャは「うわッ!?」と声を発し、そのゆきの大声により盛大に全身を揺らした。
そしてナランチャのすぐ近くにいたフーゴに小さく耳打ちをした。
「なァ、なんであんなにゆきってば苛ついてんだよ、フーゴォ・・・。」
「知りませんよ!どうせミスタのヤツが、またなんかやらかしたんでしょう。」
コソコソと会話する二人の言葉はゆきの耳には入らず、ただひたすら行き場のない怒りを持て余していたのだった。