あいくるしい | ナノ



夜空の下で賑わうお祭り会場。連なる屋台はそれぞれに活気づいていて、見ているだけでもこちらまで気持ちがわくわくしてくる。そこここに溢れている人たちは、祭り囃子にあわせて声高らかに笑いあっている。


カラン、コロン、と下駄をならしながら、私とリドルはぎゅっと手を繋いでにぎわう人混みの中を歩く。今日は地区の夏祭りで、この日のために前々から用意していた浴衣をリドルに着せて、ふたりでお祭りに遊びに来たのだ。


リドルは私と繋いでいない方の手にピンク色の綿菓子を持って、頭には最近人気のネコの地縛霊のお面をつけて、はじめてみる夏祭りの雰囲気に押されながらも、珍しそうにキョロキョロと立ち並ぶ屋台を見ている。


「ねぇ、あれは何?」


私の浴衣の袖を引きながら、リドルはひとつの屋台を指差した。指差された先を見ると、それは金魚すくいの屋台だった。リドルと同じくらいの年頃の子どもたちが、きゃっきゃと明るい声で笑いながら、金魚をすくおうと奮闘している。


「あれはね、金魚すくいだよ。リドル君、やってみる?」
「いいの?」
「いいよ!気になることはやってみようよ」


私が頷くとリドルは嬉しそうにはにかんで、私の手を引いて金魚すくいの屋台へと誘った。
水槽の中では美しい赤や黒の金魚が悠々と水の中を泳ぎまわっていて、見ているだけでも涼しくなる。リドルは金魚を見るのはもちろん初めてならしく、目をきらきらさせて金魚を見つめている。お金を払って2枚のポイを受け取ると、ひとつをリドルに渡して水槽の前にしゃがむ。いよいよ金魚すくいのはじまりだ。


「これで金魚をすくうんだよ」
「わかった」


リドルはぐっとポイを握り締めると慎重に水につけて、金魚をすくおうと試みたけれど、やっぱり初体験ということもあってか、みるみるポイは水を吸って、金魚に触れた瞬間に穴が空いてしまった。


「……あ!破れちゃった」
「残念。ちょっと難しいよね」
「りんね、がんばって」


破れてしまったポイを見て、悔しそうにリドルは肩を落とした。次は私の番だ。リドルに期待を込めた眼差しで、「がんばって」と言われてしまっては、絶対に失敗はできない。私は気合いを入れ直してポイを握って、悠々と泳ぐ赤い金魚に狙いを定めてポイを水の中に入れた。さっと切るように水に対して斜めにポイを入れて、弾くように金魚をお椀の中へと入れた。


「すごい!いちばん大きくてきれいなやつだ!」
「運がよかったんだよ」


リドルは隣でほんのり頬を染めてうれしそうに笑いながら、お椀の中の金魚をまじまじと見つめた。リドルが言うとおりにこの金魚は色も形もいちばんよくて、だからこそ狙ったのだ。大きさも他の金魚に比べると大きいから、残念ながらポイはもう破れてしまったけれど、リドルに喜んでもらえたからよしとしよう。屋台のおじさんに金魚を袋に入れてもらってリドルに渡すと、金魚を受け取ったリドルはきょとんと首をかしげた。


「リドル君にあげるね」
「いいの?」
「もちろん!リドル君のためにがんばったんだから」
「ありがとう。……うれしい」


袋の中でゆらゆらと揺れている金魚を見つめながら、リドルはうれしそうに微笑んだ。そのあと回った屋台では、私はりんごあめを買って、リドルは輪投げで自分よりも大きな蛇のぬいぐるみを当てて大喜びした。


まだまだたくさん屋台はあるけれど、少しゆっくりしたいなと思って、私たちは出店の通りから離れて少し静かな場所へ移動した。ベンチに腰掛けてカキ氷を食べていると、不意にドン!と大きな音がして、私とリドルは音がした方を見上げた。


「わあっ!花火だ!」
「……花火?」
「リドル君、花火見るのはじめて?」
「うん。……きれいだね」


夜空にいくつもいくつも咲く、大輪の花火。リドルは一心に見つめながら、私の手を握った。私もリドルの手を握り返して、キラキラと輝く花火を見つめた。こんなふうに穏やかで、暖かい日々が、これからもずっと続けばいいと思った。


「また来年も、りんねと一緒にお祭りに来たいな」
「きっと来れるよ。来年も、その次も」


約束だよ、とふたりで笑いあいながら、私たちは次々と打ちあがる花火を見つめ続けた。また来年も、ふたりでここにいたいと、強く願った。